第5章 さよならの直前:マスルール
セリシアSIDE
「好きだ、セリシア。」
後ろから聞こえてきたのはそれ。
耳を疑ったけど、聞き間違いだとは思わなかった。
「・・・名前、憶えてたんですね。」
知らなかった。
きっと、顔だけ覚えて名前は知らないんだろうなって思ってた。
なのに、ただの女中である私の名前を憶えてるんだね。
「ありがとう、マスルールさん。」
一回だけ、振り向く。
これでまた、心残りが増えた。
きっとこの先私は考えるんだろうな。
もしも、の世界を。
「でも、ダメ。・・・バイバイ。」
本当は、私だって彼のことが好き。
彼と結ばれたらいいのにって思ったことはある。
でもね、ここでダメって言わなかったら・・・。
私はなんといえばいいの?
バルバッドにいかなきゃいけない理由がある。
だから、この国を出るのに。
長距離の恋愛なんてできやしないし、彼はこの国を離れられない。
この恋に、いい道なんて、答えなんてないんだから・・・。
涙を見られないように少し早足で部屋に戻った。