第5章 さよならの直前:マスルール
セリシアSIDE
「行かなくていい。」
突然手を取って、私の眼を見てマスルールさんはそう言った。
そのあとにも言葉はない。
ただ一言、無口な彼がはっきりと言った。
「え・・・。」
彼の手はあったかくて、強くはなかった。
けど、一瞬なんて返せばいいかわからなかった。
「そっ、そんなの、もう無理ですよ。もうやめるといってありますし。」
ここの仕事を辞めれば、私は本当にこの国に用無しなのだ。
既に辞めると言ってあるのを中止にするなんて迷惑はかけられないし。
「それをやめればいい。」
「だから迷惑かけちゃいますって。」
本当はこの国に残っていたかったけど、そうできない理由がこっちにもあるんだ。
「とにかく、私は行かなくっちゃいけないんです。…マスルールさん、今まで迷惑かけたかもしれないですけど、ありがとうございました。」
その場を離れようと手を引っ込める。
・・・が、手は引っ込まらなかった。