第13章 青学☆不二 周助 編
彼女の名前は、【巻村 志乃(しの)】
淡い栗色の瞳、白い柔らかそうな肌……何よりも、艶やかな長いストレートの黒髪。
風が彼女の髪を揺らす度に、柔らかい匂いが僕の鼻をくすぐった。
恥ずかしそうながらも、ちゃんと僕の目を見て話をしてくれる。
駅までの時間は、あっという間だった。
僕は、彼女の姿が見えなくなるまで、ずっと見ていた。
たわいもない話ししかしていないけど、また、あの声を聞きたい。そう思っている。
そんな僕の願いは、無情にも聞き入られることもなく……ただ、遠巻きで君の姿を見かける度に……そう、見ているだけしか出来なかった。
君の周りが眩しく見えて……僕は、近付くことが出来なかった。
ただ……勇気が出なかった。
でも、チャンスが訪れた。
僕の不甲斐なさに痺れを切らした神様が、チャンスをくれたのかもしれない。
そのチャンスと言うのは……町の書店で、ガラス越しにあの子を見付けたこと。
手には、美味しそうな料理本。
僕は、吸い寄せられるように書店の中に入って行った。
心臓がドキドキする…。緊張感が凄いや…。
不二『こんにちは。巻村さん。』
巻村『あっ、不二さん。こんにちは。この前はありがとうございました。』
不二『風邪はひかなかった?』
巻村『はい。雪だるまになる前に、帰宅出来ましたから。フフ。』
不二『それは良かった。あ……ケーキ?』
料理本に視線を向ける。
巻村『はい。不二さんなら、たくさん貰っているんでしょうね。』
不二『それって……2月のってこと?』
巻村『はい。』
不二『巻村さんは作るの?』
巻村『はい。友チョコと家族にですけど。』
不二『…僕は?』
彼女は、キョトンとした顔をした。
不二『無理…かな?』
巻村『たくさん貰っているなら私のなんて…。』