第12章 四天宝寺☆千歳 千里 編
この日、本当に楽しかった。
心地好い風景も、彼女の表情も、美味しいパンも……全てにおいて、俺には楽しいものだった。
日が傾いて来ると、俺たちは駅で分かれた。
初めてだった……振り返ったのは。
どうしてか……引き留めたい衝動にかられた。
それから数日後の部活中。
忍足『千歳…最近、元気ないやん。』
千歳『そんなことなかと。』
忍足『何かあったんやないんか?』
千歳『何もないたい。』
そう言ったものの、理由は分かっている。
あの日から、メールのやり取りはなくなった。
まぁ……もう、接点は……。
千歳『フウッ……。』
小さな溜め息を吐く。
忍足『ほら、溜め息なんかついて。何か悩み事があるんやろ。』
千歳『何もなかと。』
忍足『まぁ…言いたくないなら無理には聞かんけど。』
相変わらず、鋭いたいね。
あれからどこを散歩しても、何かが足りないような気がしてならなかった。
あれから更に数日…。
学校の廊下を歩いていると、見覚えのある人が目の前を歩いてこっちに来ている。
友達との会話に夢中で、俺には気付かない。
それは…すれ違ってもそうで……俺は、無意識に名前を口にしていた。
あ…まただ。驚いた時の、真ん丸の目。やはり、可愛らしい。
真弓『千歳さん?えっ……同じ…学校?』
彼女の友達は、意味がわからず彼女と俺を交互に見ている。
千歳『久しぶりばい。』
真弓『はい。あ、そうだ。千歳さん、ウチに来ません?』
千歳『えっ…真弓さん家?』
いきなりで驚いた。
真弓『あ、そうじゃなくて、パン屋の方です。今日は新商品をお披露目しているんですよ。』
俺は彼女の申し出に賛同して、放課後に同伴する約束をした。
俺は彼女と再会して……気付いた。