第12章 四天宝寺☆千歳 千里 編
やがて、竹藪が開けて明るい光の中へ踏み入れた。
そこには、一面の白爪草畑。真っ白な絨毯を敷き詰めているかのようだった。
真弓『ここが私のお薦めの場所です。』
千歳『気持ちのいい場所たい。』
深呼吸しては、草花のいい薫りを胸一杯に吸い込んだ。
真弓『良かった…気に入ってくれたみたいで。』
千歳『気に入ったばい。』
俺は無造作に寝転び、空に向かっては手を差し伸べた。まるで、空を独り占めした気分だ。
そう言えば、彼女はバスケット(籠)を持っていた。
俺が持つと言っても、渡してはくれなかった。
あれには、何が入っているのか気になる。
って、真弓さんが一緒なのに勝手に寝転んでしまった。慌てて体を起こす。
真弓さんは、俺に背を向けて直ぐ傍に座ってはなにかをしていた。
千歳『真弓さん?』
怒っているかもしれないが、彼女に声をかけた。
真弓『あっ、そのまま寝転がってて下さい。』
彼女の言葉に甘えて、再び寝転がった。
どれくらい時間が経っただろうか…。
風に乗って、また、パンの匂いがしてきた。
千歳『パンの匂いがするたいね。』
真弓『バレちゃいましたか。これ…良かったら、食べてみてくれませんか?』
彼女が差し出したのは、シンプルな丸いパンだった。
千歳『これは、何のパンと?』
真弓『塩パンです。』
初めて聞くパンだったが、とても優しい匂いにつられて口の中に入れた。
小麦やバターの味と共に確かに感じる【塩】の味。
千歳『美味いばい。』
真弓『良かったぁ……。これ…私が小さな時に砂糖と塩を間違えたのがきっかけで作られたものなんです。』
千歳『でも、美味しいとよ。』
真弓『あ…他にも種類があって……。』
先日の礼にと、幾つかのパンを振る舞ってくれた。
自分には、これくらいしか出来ないからと言って…。
でも、俺にはどんな豪華な料理より彼女が振る舞ってくれたパンの方がご馳走に思えた。