第9章 聖ルドルフ☆観月 はじめ 編
礼拝堂いっぱいに響き渡るパイプオルガンの音色。
僕はその場に立ち尽くし、その音色に耳を傾けていた。
透き通る【音】は、僕の五感を刺激し感動を与えた。
奏でている彼女は、いつもと違い雄弁な気がする。
彼女の演奏が終わると、無意識に拍手を贈っていた。
今の僕に出来る賛辞は、拍手以外持ち合わせていなかったからだ。
彼女は僕の拍手に驚き振り返った。
観月『有難うございます。』
ロロナ『何故…お礼なんか…。』
観月『貴女の演奏が素晴らしかったからですよ。』
ロロナ『私は…見世物ではありません。』
他人を拒絶するキッパリとした口調。
観月『ある意味、仕方の無いことかもしれませんよ。だって、本当に貴女の演奏は素晴らしかったのですから。』
ロロナ『わ、私の演奏なんて……。』
観月『貴女の演奏で歌いたいと思いました。』
ロロナ『では、毎年讃美歌を…。』
観月『ええ、僕が歌わせて貰っています。』
ロロナ『…私は…誰の為にも演奏はしません。失礼します。』
彼女は、足早に居なくなった。
それ以来、彼女は礼拝堂に立ち寄らなくなった。
校内で見掛けるが、いつも一人。
そんなある日の週末。
僕は街へと出て、必要な買い出しをしていました。
いつもの紅茶の茶葉を手にしようとした時、同じように手を差しのべる誰か。
隣りには、驚いた顔をした彼女がいました。
観月『貴女もこの紅茶がお好きなのですか?』
彼女は、ただ俯いたまま小さく頷いた。
僕は、最後の1つでもあったその茶葉を手にして彼女の手にそれを乗せました。
ロロナ『あ、私は…。』
観月『僕のことなら気にしないで下さい。他にもストックはありますから。』
その時、初めて少しだけ感情を見た気がしました。