第5章 氷帝☆跡部 景吾 編
跡部『分かった。』
俺が席を変わると、一呼吸おいて……あの曲が奏でられた。待ちわびていた曲…。
心地よく響くメロディー。俺は目を閉じて、伊藤の奏でるピアノを聴いていた。
見た目はフンワリしているものの、芯はしっかりしているようだ。
何せ、俺に楯突いた奴だからな。
この曲が終わると……もう一曲、奏で始めた。
伊藤が好きな曲なのだろうか?
フト、伊藤の横顔を見たとき…こいつの瞳に釘付けとなった。
穏やかで、満足そうな優しい笑顔。
心からピアノが好きなのだろうと思わせるもの。
最後の【音】が終わった…。
静けさに染み渡る中、ピアノの余韻に浸っていた。
跡部『いいな……お前のピアノ。』
伊藤は俺の顔を見て、驚いているようだった。
伊藤『跡部先輩でも、そんな顔をされるんですね。意外です。きっと、色々ダメ出しされる覚悟で…。』
跡部『しねぇ-よ。本当に…お前のピアノが聴きたかったんだ。ありがとな。』
伊藤『ち、調子狂うので止めて下さい。わ、私…誉められてないんですから。』
また、新しい一面。
跡部『可愛いな…伊藤は。』
伊藤『えっ!?な、な、何を言ってるんですか。誉めても何も出ませんから‼』
跡部『そんなんじゃねぇよ。やっぱり、伊藤のピアノはいい。』
本当に誉められ慣れていないようで、顔から蒸気が出そうになっている。
跡部『なぁ、また…聴かせてくれねぇか?』
伊藤『…き、来たっ‼』
廊下には、取り巻きの女等の姿。
跡部『ったく…人が折角いい気分だったのによ。』
伊藤『何とかして下さい。』
跡部『分かった。少し待ってろ。』
別室で、俺はこいつらに告白した。
たった今、俺がこいつに惚れたことを…。
叫び声のような声が上がったが、こいつらが伊藤にちょっかいを出したのがきっかけだ。
そもそも、こいつらの言い分なんかはどうでもいい。