第5章 氷帝☆跡部 景吾 編
?『あれ…跡部。ウチに何か用?』
声をかけてきたのは、先日【置いてきぼり】と言った男子生徒。
跡部『ここは、お前の家なのか?』
?『そうだよ。あ、来てたのか…真理亜。』
跡部『伊藤と知り合いなのか?』
?『親同士が幼馴染みで、その縁だよ。何なら寄ってく?跡部は、クラッシックは好きだろ?』
意外なところからの申し出だったが、俺は断った。
俺が顔を出せば、あいつの笑顔が……。
帰り道、ボンヤリとしながらさっきのあいつの顔を思い出していた。
自然の笑顔……俺には見せないもの。
手を伸ばせば、あいつに届くのか?
それから毎日、ただ…待っていた。
それでも、あいつのピアノは聞くことが出来ないまま。
どれだけ、この曲を俺自身も弾いただろうか…。
こんな音だったか?この曲は…。
黄昏るなんて…俺らしくないな。
初めてだ…俺の存在を否定する奴は。
この日も弾き終わり……ただ、鍵盤を見ていた。
あいつのゆびで奏でられるあの音階。
真似ようとしても……。
そんな時だった。
静かに開いた音楽室の扉。
跡部『伊藤……。』
伊藤『その曲……好きなのですか?』
跡部『あ、あぁ…。』
伊藤は、逃げずに中に入って来た。
跡部『…弾いてくれるのか?』
伊藤『交換条件があります。』
跡部『何だ?』
伊藤『跡部先輩の取り巻きを何とかしてもらえませんか?毎日のように、色々言って来るんですよ。』
本当に、ウンザリしたような表情をしている。
きっと、あの時俺の言い分を断ったが故だろう。