第5章 氷帝☆跡部 景吾 編
忍足『今度はどうしたんや。』
跡部『何がだ。』
忍足『メッチャ機嫌悪いやん。何か嫌なことがあったんか?あ、ひょっとして……。』
跡部『煩せぇーぞ!!』
忍足『はい、はい。ほな、俺は姫さんを待たせてるから帰るわ。ほなな。』
俺様がイライラしてる?有り得ないだろ。
翌日、俺は許可を取り……音楽室に来た。
自分で奏でるベートーベンの曲。
悪くはない……だが、【違う】と感じている俺がいる。
ん?扉の隙間から、中を見ている奴がいた。
跡部『伊藤だろ。そんなところで見てないで、中に入って来い!!』
しかし、クルリと向きを変え……走り去っていく足音。
その放課後。
メンバーらが、何か言いたそうな顔をして俺を見ている。
だが、一向に何も言わない。
跡部『お前ら、何か言いてぇことがあるんだろうが!!』
忍足『怖いなぁ…跡部。何、そんなにイライラしてんねん。』
跡部『あぁ?俺様が?』
みんな頷いている。
跡部『チッ……別に何もねぇ。』
足早に部室を出ては、車に乗り込む。
街中を走る。そして……俺は見付けた。
伊藤の姿を。
学校で見る覇気のない表情ではなく、嬉々とした明るいものだった。
俺は車を止め、一つの建物に入った伊藤の後を追った。
窓越しに見えるスタジオ。中には、立派なグランドピアノ。そして……小学生らしき子供に、ピアノを教えている伊藤。
ただ、楽しそうだった。
あんな笑顔、学校では見たことがない。
そんなにピアノが好きなのか……。
俺は、あいつに言った台詞を思い出した。
『聴いてやるから……』
もう少し、言い方があったか……。