第5章 氷帝☆跡部 景吾 編
仕方無い……次は、仕事の前に行くか。
待ってろよ……【ベートーベンの女】!
そして……待ちに待ったこの日!
ピアノ曲が流れ始めた。足早に向かう。
が……途中で曲が途絶えた。
今日は、随分と早いじゃねぇか。
音楽室のドアを勢いよく開けて……ピアノの椅子に座っている奴を見て唖然とした。
そいつの回りには、友人らしき3人。
座っている奴を含めて、全員男だった。
俺の姿に驚き、慌てて掃除を始めた奴等。
跡部『男……だったのか?』
あんな繊細で情緒的な曲を……あんなふざけていた奴が?
納得いかねぇ…あいつは、2年の正木だったな。聞いてみるか……。
俺は気を取り直し、尋ねてみた。
正木『俺がピアノ?いえ……弾けません。』
跡部『そうか。お前らがここに来た時に、誰かいなかったか?』
正木『いましたけど……あんな奴が有り得ないかと……。』
跡部『いいから、誰か教えろ。』
正木『2年D組の、伊藤って女です。』
跡部『分かった。じゃぁな。あ、掃除は真面目に早く終わらせろ。いいな?』
ふざけていた奴等に、苦言を口にして音楽室を出た。
跡部『要約、分かった……。明日、顔を見に行くか。』
俺は、期待していた……。
翌日の朝一。
教室に足を運ぶと、目的の奴を訪ねた。
目の前に現れたのは…………眠そうで気だるそうな一人の女。
俺を見ても、態度が変わらない。
跡部『お前、ピアノを弾いていただろ。』
伊藤『許可なら、とっていますけど。』
跡部『そういうことじゃねぇ。今日の放課後、俺が聴いてやるから弾いてみろ。』
女は、怪訝な顔をした。誰が見ても分かるくらい不機嫌な表情を……。
伊藤『お断りします。』
不信感以外、何もない冷たい口調だった。
それから……学校で、あのピアノを聴く機会は無くなった。