第2章 兄と妹とその周辺
俺はすかさずツッコミを入れる。
「というか、お母さん知ってたよね?何で教えてくれなかったの?」
今度は莉緒が尋ねる。
「知ってたけど、晴幸さんが自分で言いたいって言うから」
「それ絶対楽しんでるだろ。ふざけんなよ、おい」
娘が男みたいな口調になったにも関わらず、えりは「ふふふ。なんのことかしら」と言ってはぐらかす。
その笑顔は少し黒い。
「で、どうすんだよ。言葉なんか一週間でどうこうなる問題じゃないぞ。そもそも、俺は転校なんかしたくないからな」
「ああ、その必要はないぞ。おまえらは留守番だ。行くのは俺とえりだけだからな」
相変わらず晴幸は、何の気なしにケロッと言う。
「え!?お母さん行っちゃうの!?」
「なんだ、莉緒。父さんに単身赴任させる気か?父さん寂しくて死んじゃうぞ」
「だって、二人は転校したくないでしょ?私は晴幸さん一人で行かせたくないし…。そしたら私がついて行くしかないじゃない」
「いや、そういうんじゃなくて…」
「俺たちはどうなるんだって話だよ」
俺が莉緒の代弁をしてやる。
転校しなくていいのは嬉しいが、これは予想外だ。
「それなら大丈夫よ。ちゃんと仕送りだってするし、家事は莉緒がだいたいできるでしょ?」
「まぁ、できるだけど」
「なら大丈夫よ。お金の事はこの一週間で教えてあげるしね」
えりは手を合わせ、笑顔で言った。
「しっかりした幸男くんもいるわけだし、家のことは安心ね。マイホームを手放さなくて済むわよ、晴幸さん」