第2章 兄と妹とその周辺
「じゃあ、そろそろ行くね。そっちも時間ないだろうし、私もバスの時間に間に合わないから」
鞄からケータイを取り出し、液晶画面を見た莉緒が言った。
「ありがとな」
「まぁ、ついでだからね。皆さん、また遊びに来てくださいね、ご馳走します。今度は黄瀬もおいで」
「いいんスか!?」
「もちろん。置いてきぼりじゃ寂しいでしょ?」と、笑って言った。
「じゃあ、また今度」
そう言って、莉緒は笑顔で走り去った。
残された五人は、姿が見えなくなるまで見送る。
「なんか、莉緒っちって変わった人っスね〜。俺女の子にあんな扱いされたの初めてっスよ」
「莉緒が変わってるんじゃなくて、おまえが変わってんだよ」
笠松先輩がイラついたような声で言う。
「しかも、それさっき注意されたばっかだろ」と言われたが、「いや〜、なんか呼びづらくて」と、素直に言っておいた。
実際「さん」なんて仕事以外で使わないので、プライベートではしっくりこない。
笠松先輩には「俺は知らねぇぞ」と言わんばかりに、盛大にため息をつかれた。
「で、笠松。実のとこどう思ってんの?莉緒ちゃんのこと。近親相姦の可能性とかないわけ?」
腕を組んだ森山先輩が、興味津々な様子で笠松先輩に聞く。