第51章 番外編スリー
「待って」
「・・・」
「キミは・・・僕に何か言いたいことない?」
自分の顔が歪んでいるのが、鏡も見ていないのに分かった。
(ああ、嫌だ)
“昔から”だなんて、ハルとスイレンはいつからの付き合いなんだろう。
(昔から、ハル姉の傍には私がいたはずなのに)
自分の知らない姉をスイレンは知っている。
いつの姉だ?
どの時の姉だ?
(・・・ずっといっしょだって、言ったくせに・・・)
きっとそう言ったことも覚えていないのだろう。
仕方がない。
もうずっと昔のことだ。
(・・・分かってる)
これは、いわゆる嫉妬というやつだ。
ずっといっしょにいた姉がとられる。
スイレンの言った通り、マリはハルを自分のものだと思っていたのかもしれない。
「・・・私からハル姉をとるんですか」
「・・・うん、そうだよ」
「・・・あなたは私にないものをいっぱい持ってるのに、どうして・・・?」
「・・・」
「私には、ハル姉しかいないのに・・・」
憧れの人にこんなこと言いたくない。
そう思いながらも、震える声とともに涙がこぼれてとっさに唇を噛んだ。
「・・・やっぱり、キミは僕と似てるなあ」
「・・・何がですか・・・」
「昔の僕そっくり。僕にはハルしかいないのにって、僕も言ったことあるよ」
スイレンは笑って、マリにティッシュを差し出してきた。
それを遠慮がちに受け取って、鼻をかむ。
一段落したところで、スイレンが口を開いた。
「・・・キミには本当に申し訳ないと思ってるよ。でも譲りたくない」
その言葉を聞いて、カチンときた。
泣いて、スッキリしたのだろうか。
「・・・別に、もういいです」
「え?」
「勝手にしてればいいじゃないですか。いちいち私の意見なんて聞いてどうするんですか?どうせとるくせに」
「・・・」
「周りを納得させなきゃ行動に移せないんですか?意外と自信ないんですね。・・・それじゃあ私、失礼します」
逃げるようにしてその場を去り、小走りで家に帰る。
帰り道、また涙がボロボロこぼれたが、拭わずそのまま突っ走った。
最後くらいあんなことを言ってもいいだろう。
(私からハル姉のこととるんだもん。あれくらいはいいよね)
「・・・でもやっぱり、言い過ぎたかなあ・・・」