第51章 番外編スリー
「スイレン」
「うん?」
「アンタ、マリのこと泣かせたでしょ?」
「・・・えっ?」
「どっちにしても殴るけど、一応言い訳は聞いてあげる。はい、五秒以内に話して」
「えっ?あっ、もう殴る前提なんだね!・・・いやいやいや、違うんだって、ちょっとハルについて話してて、そしたら──グフッ」
「もう話さなくて結構よ」
「ひどくない?まだ五秒経ってないんだけど・・・」
「私の中では五秒経ってた」
「ぐっ、理不尽だよォ・・・」
結局、マリの言葉に後押しされて、私はスイレンのところに行く決意をした。
マリはああ言ったけど、きっとさびしい思いをさせているに違いない。
「ハルさんもスイレンには甘いですねえ・・・あまり痛くないところを殴っても、意味ないでしょう」
「おい鬼鮫・・・お前、それはどうなの?」
「まあまあ、いいじゃない。ハルも大事な妹が男に泣かされて気が立ってたのよ」
「小南・・・お前分かった風に言うけど、」
「まあでも、スイレンさんを笑顔で殴る女なんか、この世界でハル以外おらんわ!ふふ、こういう感じ懐かしいわあ。昔を思い出すなあ」
「聞けよ!」
みんなで集まって、スイレンのところに行くという話をすると、意外にもみんなは冷静に「そうか」と言っていた。
ただ一人イタチだけは、娘を嫁に出すお父さんのような感じになっていたが、気まずいながらもスルーした。
「ねえ、みんな」
「ん?」
「私、またみんなと会えて嬉しいよ。きっと私は、世界一幸せな人間だね」
この世界で再び巡り会えたこと。
それは偶然か運命かは分からない。
「ったく、お前は恥ずかしい人間だな・・・よくそんなことが素面で言えるぜ」
「ふふ、でも私たちも同じ気持ちよ、ハル」
「旦那、にやけてんぞ・・・うん」
「でも小南さんの言う通りですよね」
「ああ、そうだな」
私は、生きていて良かったと思う。
みんながいる世界が、私の夢見た世界。
だからここは、私にとってこれ以上ないくらいの幸せな世界だ。
(ねえ、みんな。愛してるよ)
悪役だって、幸せになる権利はあるよね。
もしなくても、大丈夫だよ。
私がみんなのこと、今度こそ幸せにしてみせるから。
end.