第51章 番外編スリー
「今絶対惜しいことしてるよ・・・」
分かってはいるが、今は素直にファン精神を発揮できない。
姉が幸せになれるなら、それがいい。
それがマリにとっても幸せだと思える。
なのにどうして、こんな濁った気持ちなんだろう。
(素直に喜べないなんて、姉不幸な妹だなあ)
先生には図書館で勉強してくると言って出てきたが、実際勉強が好きじゃないので、図書館には行ったが早々に出てきた。
先生もそれを分かっているので、不思議そうな顔をしながらも「いってらっしゃい」と言っていた。
姉には言っていないが、まあいいだろう。
いずれ離れ離れになるんだ、今のうちから距離を作っておいた方が後々寂しくなくなる。
そろそろか、と帰路に着き家まで戻ると、ちょうどスイレンが帰ろうとしているところだった。
(あー、カッコいい・・・)
ボーッとその姿を見ていると、ふいにスイレンがマリの方へ視線を向ける。
そして、「あっ」という声が聞こえたかと思うと近づいてきた。
「マリちゃん・・・だよね?ちょっといい?」
スイレンがマリを連れてきたのは、近くの公園だった。
「キミからハルをとるようなことしてごめんね」
「・・・別に、ハル姉は私のものではないです」
「ああ・・・うん。そうだね。でも、キミはハルの妹なんだから、とられたって言う権利もあるんだよ」
「・・・」
「僕って強欲だからさ、キミから奪ってでもハルが欲しい。・・・自分でも最低だって分かってるんだけどね。キミは僕のファンだって聞いたから、幻滅させるようなことしてごめん」
スイレンはそう言って、マリを見る。
マリも黙ってスイレンを見る。
「・・・心に決めた人がいるって・・・言ってなかったですか」
「うん?ああ、ハルのことだよ。大丈夫、心配しなくても幸せにするよ」
「・・・ハル姉はそれで納得したんですか?」
「いや?ていうか気付いてないと思う。でもまあ、追々分からせていくつもりだよ」
「・・・へえ・・・」
「そういうのには、昔から鈍感だからね」
そんなことを言って、スイレンは少しだけ笑う。
マリはそれ以上何も言えなくなって、帰りますと口にした。