第50章 番外編2
「・・・負担なら、考えなくていい」
「うん?」
「一人を養えるぐらいの金の余裕はある。もうお前に苦労はさせたくないというのがオレの本心だ。お前の本心がそういうことなら、問題ない」
(・・・あれ?)
「オレをもう一度お前の兄にしてほしい。返事はいつでも構わないから」
そう言って、イタチは席を立つ。
(・・・は・・・?)
その姿を目で追うと、彼は会計を済ませ店を出て行った。
しばらく動けず、思考も停止する。
(“問題ない”?)
何が?
「・・・意味分からん・・・」
呆然としたまま店を出て、歩きながら考える。
(あの人は私ともう一度兄妹になりたいのか)
なってどうするのだろう。
確かに私にとっても悪い話じゃない。
これから高校・大学と進学しようと思うなら、お金のこともあるし、彼の話に応じるべきだ。
でも、そんな理由で彼のお荷物にはなりたくない。
(どうしたらいいんだろう・・・)
彼を兄だと思えるかと今問われてしまえば、きっと私は即答することはできない。
前世だって私は立場上彼のことを兄と呼んでいたのだし、もちろん兄として愛していたけれど。
(今さら、あの頃と同じように接しろって言われても)
「そう簡単には・・・」
結局悶々としたまま時間は過ぎていき、全く答えが出ないまま一週間が経った。
このまま一人で考えていても、どうせ答えは出ない。
悩んだ末、スイレンに相談することにした。
「へえ、そうなんだ。で?ハルはどうしたいの?」
「・・・それが、まだよく分かんなくて。自分の気持ちも分からないなんて、おかしいよね」
「ハルはアイツのことにあると途端に逃げ腰だなあ。自分のお兄さんなんだから、とことん甘えたらいいのに」
「そういうわけにもいかないでしょ・・・もう血は繋がってないんだから」
「・・・気にし過ぎだよ。まあ、キミの気持ちも分からなくはないけどさあ」
先日、トーク番組にて「やっと心に決めた人と巡り合えた」と話したらしいスイレン。
そう教えてくれたのはマリだが、彼女も彼女でスイレンに恋をしていたファンの一人なので、失恋したかのように落ち込んでいたのは記憶に新しい。
おやつのプリンを譲ってやると少しは機嫌が直ったのだが、彼女の心の傷が癒えるのには時間がかかりそうだ。