第50章 番外編2
「鬼鮫さんは、優しいですよね」
「え?」
「こうやってわざわざ迎えに来てくれて・・・気を使ってくれたんでしょ?私が緊張してると思って」
「ええ、まあ。あなたって結構ビビリなところがありますから、直前になって逃げだされたら困るのはこちらです」
「いや、逃げるだなんて・・・約束はきちんと守りますよ」
「どの口が言ってるんですか。散々イタチさんとの約束を破って、そのくせ逃げ足だけは早いんですから」
「・・・昔のことですよ」
「あなたは誰かに似て嘘も上手だったし、頭の回転も速かった。戦闘能力だって子どもだと油断してたら危ないし、何せあなた“クロ”だったんでしょ?あのガキ目障りだなとか思ってたらハルさんだし、それに気づいたのも結構あとだったもので、もう笑えますよね」
嫌味がチクチクと心に刺さる。
意外と根に持っていたらしい鬼鮫の笑顔は相変わらず口角だけ上がっているもので、そういうところは変わらないなあと他人事のように思った。
「・・・まあ、ですからね。こうして会うと言ってくださったことだけでも私は嬉しいんですよ。イタチさんはあなたに恨まれてると思っていますから、自分からハルさんのことを口にするのは酒の席だけですし」
「・・・は?」
「うん?」
「・・・いや、だって今・・・私が恨んでるとか何とか」
「ええ。あの人、ハルさんを置いて死んでしまったことに負い目を感じて、恨まれて当然だと思ってるですよ。それでも会えたら謝ろうと思ってるって何度も言ってます」
「はあ・・・?」
「さ、もう着きますよ」
そう言った鬼鮫から目線を外し、外を眺める。
車から降りると、そこは大きなマンションだった。
鬼鮫の後をついて歩きながら、自分の中で緊張が高まっていくのを感じた。
「心の用意はいいですか?」
「・・・いや、まだ・・・」
「じゃあ、行きますよ」
まだ「いい」とは一言も言っていない。
それなのに鬼鮫は、勢いよくドアを開けた。
「ちょっと・・・!」
このクソ野郎、と小さく呟くと、彼がニコリと笑う。
とても悔しいが、正直彼がこうしなければ、心の準備に一時間は費やしていただろう。
だから、鬼鮫のこの行動は賢明だった。
そう思ったのはすべてが終わったあとのことだが、この瞬間だけは殺意が芽生えたのは確かだった。