第50章 番外編2
まさか、と思って人だかりの方へ視線を向けると、そこにいた。
こちらを見て、立ち上がる。
「じゃあね。僕、迎えが来たから」
「えー、まだ遊ぼうよ!」
「ごめんねー、また今度ね」
そんなことを言って、こちらに歩いてくる。
後ろで先生が、子どもたちに中に入るよう促していた。
私たちの前で止まると、私に向かって笑顔で「お邪魔してます」と言う。
特に反応もなく、彼は私の横を通り過ぎて歩いていく。
鬼鮫が肩を竦めてそのあとを歩き出すと、思い出したように私に向かって笑みを浮かべる。
“主様だけやない・・・アンタのお兄さんだって、小南姐さんだって、みんなアンタに会いたがってんねん”
最初に会った時のネネの言葉を思い出す。
彼の背中を見て、思わず引き留めた。
「待って」
彼は、素直に足を止める。
(今言わなきゃ、きっと後悔する)
「・・・久しぶり、スイレン」
私がその名を呼ぶと、彼は信じられないような表情で振り返った。
そして、その視線は鬼鮫に向けられて、その後もう一度私を捉える。
「・・・え・・・何で・・・?」
ゆっくりと、彼がこちらへ向かってくる。
そして、正面まで来ると、私の目をじっと見る。
「待たせて、ごめんね」
その瞬間、彼は右手で顔を覆って崩れ落ちた。
左手が私の左手をそっと掴む。
心なしか震えているような気がした。
「泣くなよ、男のくせに」
「ごめ、すぐ止めるからぁ・・・」
「せっかくのイケメンが台無しだよ」
スイレンは泣いていた。
嗚咽が響いて、涙はボロボロと落ちる。
「アンタ、泣けたんだね」
「・・・き、キミが知らないだけでっ、結構っ・・・」
「今は喋んなくていいよ、ごめんね」
触れている手を、私から恋人繋ぎのように絡ませて、スイレンを抱きしめる。
「アンタもバカね。・・・私のことなんて放って、やりたいことしたら良かったのに」
「・・・ハル、」
「でもありがとう。・・・本当はずっと、会いたかったよ」
マリが訳の分からないような顔をして、私たちを見ている。
さらに号泣し始めたスイレンの背中をさすりながら、私はマリへの言い訳を考え始めていた。