第50章 番外編2
「昔の話で済むわけないじゃない!」
「いいっつってんだろ。仮にお前のせいだとしても、オレらはそれを許すっつってんだ。・・・ここまで言わねえと分かんねえのか、お前は」
ついさっき、車の中で泣いてしまった。
それなのに涙が勝手にこぼれてしまって、慌てて制服の裾で拭った。
「・・・お前、泣き虫かよ」
「うるさい・・・ていうか私、納得したわけじゃないから」
「はあ?まだ言ってんのかよ、めんどくせえな」
サソリが眉を寄せて私を見る。
つい力が入って、いつの間にか立ち上がっていた私は、そのことに気が付いて腰を下ろす。
すると、今まで黙っていた鬼鮫が、邪魔だと言わんばかりにサソリを突き飛ばして私の正面に座る。
「痛ェな、おい!」
「ハルさん、今までのことは全部チャラにします。あなたが私のことを忘れているフリをしたことも、何もかも。ですから、私からのお願いを聞いてはくれませんか」
鬼鮫の後ろで中指を立てているサソリをよそに、私へ向けられた“お願い”はかなり高難度なものだった。
「今日は、突然すみませんでした」
「・・・いえ」
「ではまた、後日伺いますので」
「はい。・・・あの」
「何でしょう?」
「・・・今まで失礼な態度をとって、すみませんでした」
「いえ、いいんです。あなたなりに考えた結果ですから、誰かに咎められる筋合いはありません。・・・ですが、少しヒヤッとしたのは事実ですね」
「・・・」
「ふふ、もう過ぎたことです。気にしないでください」
結局、あのあとは鬼鮫に家まで送ってもらっていた。
家の前に車をつけると、エンジンを切る。
「遅くまで付き合わせたので、謝罪も兼ねて。ついでに連れを迎えに来たので、気にしなくていいですよ」
そんな意味不明なことも言って、私といっしょに車を降りる。
すると、外に子どもたちが集まっていて、マリの私を呼ぶ声が響くと一斉に私たちの方を向いた。
「ハル姉!遅いじゃない、どこ行って・・・まさかあなた、また姉に何かしたんですか?」
「マリ、大丈夫だから」
「それならいいけど・・・あっ、ねえ。今スイレンが来てるの!」
「・・・は?」
「ほら、あのスイレンだってば!私、サインまで書いてもらっちゃった!」
先ほどの鬼鮫を見る目とは一変、嬉しそうなマリ。