第50章 番外編2
過去に縋って生きているのは私。
みんなにはまだ未来があるというのに、どうして。
「“いい子”はやめたのか?」
「・・・は?」
「お前、変わったな。昔は兄貴大好きだったのに」
「・・・私は何も変わってない。あの頃から一つも、一ミリも変わってない!・・・みんなが見てた“ハル”は純粋ぶった人間だったんだよ。その証拠に、私はみんなが死ぬことを知ってた。それなのに何もしなかったの。未来が変わることを恐れて、何もしなかった最低な人間なの!」
「・・・」
「私は純粋なんかじゃない・・・全部、全部知ってた・・・でも、変えたらそれこそ世界が終わっちゃうんじゃないかって思って・・・だったらせめて、最期をって。みんなは知らないんだ、私がどれだけ最低な人間か」
「・・・おい」
「私はみんなの幸せが一番だよ。それが本心。・・・でも、そうなるためには、私がいちゃいけないんだって。小南ちゃんがいい例だよ。私がいなくなれば、みんなはみんなのために生きてくれる。・・・そう思ってたのに・・・どうして分かってくれないの!?」
初めて彼らの前で出す、大きな声。
ああ、みっともない。
きっと、みんなは幻滅しただろう。
「・・・オレは今も昔も、オレだけのために生きてる」
「・・・」
「お前がどう思おうが勝手だが、お前にオレの生き方を否定される筋合いはねえ。・・・あのなあ、お前がどんな人間だとか、そんなのはどうでもいい。今だって、オレはオレのためにお前を誘拐するような真似してまでここに連れてきた」
「・・・」
「何でか分かんねえけど、お前がボロボロになって死にかけてるの見て、ガラにもなく思ったんだわ。あの時、這ってでもお前と帰ればよかったって」
自分が死ぬと察したとき、最期のプレゼントを贈った。
それは自分の傑作が詰まっていたけれど、コイツにならあげてもいいかと思った───のに。
次に目覚めると、今にも息絶えそうなその姿。
しばらく動けなかったのは、自分の中にもそういう感情があったからなのか。
本当のところは自分でもわからない。
「・・・でも、帰らなかったじゃない・・・」
「終わった話だ。オレや他のヤツが死んだのも、お前が最低な人間だったってことも、全部昔話だろ。今さら気にすることじゃねえよ」