第50章 番外編2
「小南ちゃんがあの家に来たのは偶然なの。・・・覚えてないフリをしたことに後悔はしてないよ。鬼鮫さんが来たときだって、顔変わってて本当に分からなかったし」
「・・・」
「私は会いたくなかった。・・・だからもう関わらないようにって知らないフリしてたのに、こんな強引な手を使ってくるとは思ってなかったから・・・心臓が止まるかと思った」
先ほどとは違い、コロコロと表情を変える私にサソリは厳しい表情をしたままだった。
(・・・懐かしいな、この感じ)
“クロ”のときを思い出す。
こうやって表情をこまめに変えることで、実際はそんなことはなくても、表情豊かに見える。
よく笑えば陽気なイメージが定着するように、クロもそうあろうと私は努力していた。
正直いまの私は、“クロ”とあの頃の“ハル”、そして“はる”が混ざっているのだろうと思う。
だから、自分はこういう性格だと言い切ることができないし、何より昔の私を知っている人に会って「変わったね」と言われるのがいやだった。
今みたいなサソリの表情もごもっともだとは思う。
「私は、会わないことがみんなの幸せにつながると思ってた。今だってそう思ってるよ。みんなは何を思って私を探してたの?・・・まさか、みんながみんな、飛段さんが言ったような感じじゃないでしょ?」
「・・・」
「・・・私のことなんて気にせず、ずっと自分のために生きていけばいいのに」
どうしたって私の中にある、ぬるま湯に浸けた殺意は取り除けない。
満月の晩に必ず見るのは、自分で自分を殺す夢。
いつまでも見えない血が手を濡らし、とれないとれないと何かが泣き叫ぶ。
自分で自分の罪を許せず、けれども許せたところで何も解決はしない。
過去に固執しているのは、紛れもなく私だ。
自覚はあるが、指摘はされたくない。
“みんなのこと、大好きだよ”
いつかの自分がそう笑う。
「本当、バカだよ」
色褪せそうな幸せな思い出は、拾い集めて抱きしめた。
色褪せない苦しい思い出は、バラバラに散らばってすべてを包み込んだ。
痛みと涙はどこか奥深くに溶けて、いつか描いた夢は消えることのない幻想として心の中にとどまった。