第50章 番外編2
仕方なく裏門から出るが、見事に人通りがない。
みんなスイレンを一目見ようと行ったらしい。
改めてスイレンの知名度の高さを実感したところで、見つからないようにさっさと歩きだすと、少し先に黒塗りの車が止めてあった。
いかにも怪しい雰囲気を醸し出しているので、道路の端に寄ろうとしたが、車に背をもたれている人を見て足を止めた。
「・・・ハア・・・」
小さく息を吐き出す。
再び歩き出そうとするが、その人がこちらを向いたことで動きが止まった。
今思えば、そのまま歩き去ってしまえば良かったのかもしれない。
私が動揺しすぎてうまく行動できなかった───ただそれだけ。
落ち度は私にある。
赤い髪のスーツ姿の男とその横にいるオールバックの男が、私を見ていた。
「なあ、お前。ちょっと来てくんね?」
その言葉は紛れもない私に向けられている。
それを理解した瞬間、私は回れ右をして走り出していた。
「あっ、おい!」
自慢じゃないが、この世界に生まれてから、私は尋常じゃなく足が遅い。
人並み以下なのだが、この時ばかりは必死に走った。
たぶん、クラスで一番足の速いクラハシさんと同じくらいだったと思う。
全速力で走る私は、学校に戻るべく右に曲がろうとするが、途中で人にぶつかってしまった。
「すみません!」と言って去ろうとしたのに、グイと手を引っ張られる。
「ちょっ・・・なに、離して!」
無我夢中の私は、そこで初めてぶつかった人の顔を見る。
(・・・あ、詰んだ・・・)
察した次の瞬間には、私の体は宙に浮いていた。
「ちょっと!やだ!やめてってば、キャーー!!」
「・・・うるさい」
「いやあああああ!!誰かああああ!!」
耳元で大声を出されて、迷惑そうな角都の顔は一生忘れないだろう。
でも許してほしい。
私だって必死なんだから!
あっという間に黒塗りの車の中に押し込められて、両手両足を拘束される。
(何なんだよ、もう・・・!)
大声を出し過ぎて、のどが痛い。
咳き込んでいると、何事もなかったように車は静かに発進した。
「・・・乱暴な真似をしてすみません」
助手席から顔をのぞかせる男。
彼の顔を見て何も言えず、唯一の抵抗として大きな舌打ちをかましたが、特に何の反応もなかった。