第49章 番外編いち
「───小南さん、大丈夫ですか?」
「え?」
「元気がないですね。・・・そういえば、養護施設には行ったんでしょう。どうでしたか?」
「・・・あー・・・そうね。慣れないことばかりで、ちょっと疲れちゃって。元々子どもとか得意じゃないのに、母親になりたいだなんて欲張っちゃったから」
「そんなことありませんよ。母親になるのは、女性としてごく普通の夢だと思います」
鬼鮫が励ましてくれたのを感じ、小南も微笑んで返した。
暁も、見事に角がとれたものだ。
お互いが普通の友人のように接しあい、今では励ましてくれる。
こんなの、昔の自分が見たら笑ってしまうだろう。
そうなる原因を作ってくれたのは、紛れもない彼女なのに。
“誰?”
忘れられるということは、こんなにも辛いものなのか。
あそこに行ったのはただの偶然ではあるけれど、目が合った瞬間、何かがこみ上げてくるのが分かった。
ああ、嬉しい!と歓喜に震えたのも束の間、一気に冷水を浴びせられたようだった。
自分とまともに目も合わそうとしない彼女の腕を掴んで、振り払われた。
それが全てを表しているようだった。
(・・・あの子だけ、何も覚えていない・・・)
これは、罰なのだろうか。
(私が今までやってきたことへの、制裁・・・?)
───彼女の見る世界を見てみたかった。
初めて「愛している」と言った日は、自分の終わりの日だった。
最期に出た、もう枯れてしまったと思っていた涙は、こぼれる前に拭った。
彼女の泣き叫ぶ姿は、一生忘れられないと確信する。
初めて聞いた彼女の叫び声は悲鳴のように響き渡り、初めて自分に向けられた涙は心を潰した。
いとしいと思う気持ちは、正直邪魔だった。
気持ちがあるからこそ、いつまでも守ってあげたいと、あの子の成長を見たいと思ってしまった。
それがあったからこそ、何の迷いもなくあの子を逃がすという選択をできたのだが、自分の選択が正しかったかと問われたら、自信を持って頷くことはできない。