第49章 番外編いち
(小南ちゃんも、分かりやすくなったもんだな)
昔は一切の感情を表には出さなかった人が、今ではこんなにも分かりやすく動揺している。
それでも私と話しているときは普通の人だったけれど、ここまでとは。
いきなり私を引き留めた彼女に驚いているのか、それとも何時になくきつい口調の私に驚いているのか。
先生が、困惑した表情で私と小南を交互に見た。
「あ、あのう・・・」
ややあって、先生が声をかける。
「あの、小南さん?この子と知り合いですか?」
「いや、違うよ先生。私この人知らないもん」
「そ・・・そうなの?」
パッと手を振りほどき、背を向ける。
小南が呟くようにして、私の名前を口にする。
「は、ハル姉・・・?いいの・・・?」
「行くよ、マリ。ほら、人のことジロジロ見てんじゃないわよ」
後ろ髪を引かれるような思いはあったけれど、それを無視してマリを連れてその場を離れた。
しばらくすると、彼女は帰ったようだった。
先生が心配そうに私に事情を聴こうとするが、如何せん何もないのだ。
彼女との間に関係はおろか、言わば今日が初対面。
・・・それは言い過ぎかもしれないが、今生では事実だ。
彼女も「何でもないです」と答えたらしいし、それならそれが全てだ。
マリも口にはしないが、少し気になっているようだった。
「マリ、聞きたいなら聞けば?・・・そこまで熱視線を送られちゃあ、恥ずかしいじゃない」
「え、いや・・・ハル姉、あの人と知り合いなんじゃないの?」
「まあ、昔の知り合いだけどね」
「でもハル姉って、生まれてすぐここに来たんでしょ?昔っていつ?」
「昔は昔。もうずーっと前の話だよ」
「それってさ、ハル姉が夜泣いてることに関係あるの?」
「・・・は?」
「たまにさ、すごい号泣するじゃん。それこそ、ずっと昔からだけど」
・・・見てたのか。
恥ずかしいったらありゃしない。
一拍置いて、「関係ないよ」と答えると、マリは「ふうん」と素っ気ない反応をした。