第49章 番外編いち
(やってしまった・・・)
年下を泣き止ませるのは妹や弟のおかげで慣れているが、年上のやり方は皆目見当もつかない。
どうしたらいいのだろうと思ったところで、一度言ったことを撤回してしまった。
こうと決めたら突き通す、芯の強さが私にはなかった。
昔からそうだった。
今思えばこれがいけなかったのだ。
勘の鈍った私は、予兆に気付けていなかったのだった。
―――その日、客が来ると聞いたのは、起床してすぐのことだった。
私たちの面倒を見てくれている先生が、一番年上の私にその客を案内するように言った。
客とはいえ、きっと里親になるための相談をしに来たのだろう。
ここにはそういった人たちがよく来る。
「お昼過ぎには来れるそうよ」と温和な先生が言ったので、それまではのんびりと過ごす。
ボーッとしていると、外で遊んでいた子が「誰か来た!」と言ったのを聞いて外に出た。
「ハル姉、早くしないと待たせちゃうよ?」
「じゃあ、マリ行ってきて」
「ええ?やだよ」
結局連れて行くと、遠目に確認できる限りで本能がヤバいと察知した。
思わず重いため息がこぼれる。
それを見て、隣にいたマリが不思議そうに「どうしたの」と言った。
「ごめんけどさ、マリ、あの人任せていい?」
「え?何で?・・・頼まれたのはハル姉じゃん」
「おなか痛くなってきた。じゃあ、頼んだよ」
「もう、ハル姉ってば!・・・仕方ないなあ・・・」
妹に頼んで、客を案内してもらう。
その間に私は、部屋に閉じこもって息を吐き出した。
「ハア・・・マジか・・・」
遠くからでも分かる、目立つ紫の髪。
涼しげな目元から、大人な雰囲気が感じられる。
そう―――小南がいた。
一瞬で分かってしまった私も私だが、思ったより心中は落ち着いていた。
マリに役目を押し付けて、早足で部屋に戻っただけなのに心臓がうるさいほど脈打つ。
何故ここにと声高に叫びたくなって、顔を枕に押し付けた。
「・・・ハル姉?寝てるの?」
「起きてる・・・」
「先生が挨拶でもしなさいってさ。お客さんは女の子が欲しいみたいなんだって」
「へえ・・・その人、この部屋に近づけないでね」
「何で?」
「何でも。ハル姉のお願いきいてよね・・・」
姉という立場を利用してお願いをする。