第49章 番外編いち
どうやら私は非情な人間らしかった。
家族のように思っていた人を見殺したという自覚があり、罪悪感に押し潰されそうになっても、それを隠してのうのうと生きていける。
そもそも今生では一切の関わりもない赤の他人なのだから、罪滅ぼしの仕方さえ模索の仕様がない。
私にできることといえば、スイレンが「心に決めた人」と結ばれることを祈ることくらいだ。
そんな私も来年には高校受験を控えており、そろそろ人生のあり方を決めなければならない時期になってきた。
夢はない。
ただ、稼がなければ生きていけないことは分かっているので、とりあえず勉強はそれなりにやってきたつもりだった。
そんなある日、少し用があって街中を歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。
かなり急いでいるのか、走っている。
人通りも多い夕方に何を急いでいるのだろうと思いながらも、ぶつからないように少し端に寄る。
すると、私を追い越す寸前で足音は止まり、いきなり強い力で肩を掴まれ、強引に振り返らされた。
(え、)
反射的に体がビクッと跳ね、心臓がバクバクと音を立てる。
「な、なに、」
相当走ったのか、激しく息を切らした女性が私の肩を掴んだまま、鋭い眼光で私を真正面から見据える。
「アンタ、ハルやろ・・・?」
「はっ?」
「ハルやろって聞いてんねん!なあ、ウチのこと分からへんの?」
荒い息のまま、今度は縋るような目で私を見る女性。
「なあ、忘れたとか言わんでや」
必死な形相で、女性が私の肩を掴んで何度も前後に揺する。
通り過ぎる人が何事かと私たちを見ては去って行って、私は視界の端に映るそれを他人事のように眺めていた。
「ネネ・・・」
ポツリとこぼして、彼女をじっと見た。
私がその名を口にしたことで、俯いてた彼女がパッと顔を上げ、涙を浮かべた。
やがて彼女は私を抱きしめて、人目も憚らずに嗚咽をこぼした。