第45章 わたしと私
「お・・・おかあ、さま・・・」
それはかつて、私を産んだ母親だった。
「お母様・・・!」
彼女が精いっぱいの声で叫んでいる。
けれども反応はなく、これが偽物であると私は理解した。
(そもそもここに突然現れること事体おかしいのよ)
「目閉じて!」
「え・・・?」
「いいから早く!」
彼女が私に気づき、ギュッと目をきつく閉じる。
それを確認すると、私は彼女の後ろに回りこみ刀を前に押し出した。
すると、母を形どっていたものは崩れ、黒いやつらに姿を戻した。
母が崩れたと同時に、大勢のそれらが崩れ、灰になる。
私は刀を抜き、鞘に戻すと、彼女に声を掛けた。
「もういいよ。・・・終わったから」
「・・・あ・・・え・・・?」
「大丈夫?怪我はない?」
「お・・・お母様は・・・?」
「いないよ、そんな人は。コイツが化けてたの」
「そ・・・そう、なの・・・別に、だからどうってわけではないけど・・・」
「大切なことでしょ。・・・お母様は、私にとってたった一人の母親だもんね。どんな扱いをされても、どんなに嫌っていても、心のどこかではまだ好きだもん」
「・・・ずいぶんと勝手なことを言うのね」
彼女の声が不機嫌さを表していた。
(誰か別の人間を見ているみたい。それだけ性格が変わったってことよね)
「何笑ってんのよ」
「え?いや、かわいいなあと思って」
あははと笑いながら、彼女を抱き上げる。
そのまま横抱きにすると、彼女は怒ったように私を小さく睨んだ。
「何よー、どうせ腰が抜けて歩けないでしょー?私はアンタと違って筋肉もあるし、落としたりしないから安心していいよ」
「違う!わたしの話を遮るなって言っているの!」
「あー、そっち?はいはい、ごめんね?」
「とにかく、わたしがあの人たちのことを“好き”なんてことはありえないの!・・・あの人たちのせいでわたしたちがどんな思いをしたか忘れたの?」
「うーん、いや気持ちはわかるけど・・・」
前へ歩き始めると同時に曖昧な返事をすると、さらに彼女の機嫌が悪くなった。
(ええー・・・私ってこんなに気短かったっけ?それとも嫌いな両親のことだからこんなにヒートアップしてるだけ?)