第45章 わたしと私
その自分が目の前にいる。
(私はみんなに会って、少しずつ感情を取り戻していって、笑ったり泣いたり・・・そうして今の自分がいるけど・・・)
昔の私には、心を許せる相手など一人いなかった。
いっそのこと早く死にたいと思うほど、利己的な両親が嫌いだった。
こんな思いをするくらいなら、命なんかほしくなかった。
道具としての価値もなくなった私の存在価値は何もない。
ただの邪魔者。
(この人は、そのまま気持ちなんだ。・・・でもまあ、ちょっと被害妄想が入ってるのかもしれないけど)
「・・・そっか。わかった」
「うわ、気持ち悪・・・わたしの顔で笑わないでくれる?」
「はあ?・・・アンタだって私の顔なんだから、そんな仏頂面しないでよ。・・・あ、でも、まだ笑えたことないのか。・・・変顔でもしたら笑ってくれる?」
「くだらない」
「うっわあ・・・超むかつく。私、めっちゃクソ野郎じゃん」
「そうね。私はあなたはとはまるで別人だもの」
「だろうね・・・何となくわかってる」
同じ人間でも、周囲の環境でこんなにも性格が違ってくるのか。
「・・・まあいいや。で、一つ質問なんだけど、なんで私はここにいるの?もう死んだ?」
「知らない。・・・でも、こうしてわたしとあなたが同じ空間に存在しているということは、死んでしまったんじゃない?」
「ええ?・・・ああでも、そうなのかなあ」
よくわからないけど、でも彼女が言うならそうなのかもしれない。
「ねえ、そういえば・・・なんで私たち手繋いでるの?」
「別に離してもいいけど、あなたに触れていないとわたし消えてしまうのよ。わたしが消えてしまえばあなたも消えるのだけれど・・・離すのかしら」
「じゃあ繋いでおこうか」
「それがいいわ」
彼女の声が少しだけ、スイレンに似ている気がした。
(私より少し、低いのかな・・・?)
「さあ行くわよ」
「え・・・ねえ、どこに?」
「知らないわよ。でも、この先に何かあるんじゃないの?」
(そうだった・・・私って、ムダに自信家なんだった)
そう思っていると、彼女が手を握る力をこめたと同時に動かしかけた足を止めた。
「どうかした?」
そう言って見ると、彼女の表情が強張っている。
彼女の視線をたどると、少し先に何か動いているものがあった。