第45章 わたしと私
進めて、また巻き戻して。
気が付けば私の記憶が、何度も繰り返し脳裏に流れていた。
そして、いつの間にか誰かに手を引かれながら、私は目を閉じたまま歩いていた。
(ここは・・・?橋の上・・・みたいなところだけど・・・)
幅は約二十メートルある。
目を開けると、数歩前には肩までの髪の長さの女の子が歩いていた。
私と同じくらいの背で、パジャマのような服を着ている。
袖から覗く腕がやせ細っているようにも見えた。
どうやら、私は彼女に手を引いてもらっているらしい。
いろいろと状況を把握できて、私は足をとめた。
すると、自動的に彼女も足をとめた。
「ねえ・・・あの、ここはどこ・・・?」
彼女の背中に疑問を投げかける。
けれども、
「どこだろうね」
そんな、素っ気ない答えが返ってきた。
(なんだ、コイツ・・・私別に、変なこと聞いてないと思うんだけど)
少しイラッとしていると、彼女が振り返った。
「自分で考えてみたら?」
「―――・・・え」
「耳悪いの?自分で考えろって言ってるんだけど」
そんな悪態は、耳に入っていなかった。
そんなことより、私は目の前のものにただただ呆然としていた。
―――誰だ、これ。
この顔は、よく見てる。
声も、眼の色も、髪色も。
「わ・・・“私”・・・?」
私と瓜二つの顔。
いや、どこからどう見ても、完全に私だった。
一つ違うというならば、髪の長さ。
「・・・どういう・・・こと?」
「わたしは、もう一つの可能性のお前。そちらの世界に生まれなかったあなた」
「・・・はあ」
「つまりわたしは、死んだときから一つも変わっていない。死んだときから時間が止まったまま・・・。元の、そのままのハルだよ」
目の前にいる彼女は、ニコリともせず私の目を見て言った。
(“もう一つの可能性”の私・・・ってことは、前の世界のまんまの私ってことか・・・)
もともと政略結婚の両親には道具として見られていたし、大きくなってから病気にかかってしまい、入院生活の長かった私は、道具としても役に立たない、ただの家のお荷物でしかなかった。
(思い出すだけで嫌な気分になる・・・)
その頃は、とてつもないほどひねくれた性格だったと自負している。