第41章 スイレンの覚悟
「―――う・・・」
そして、何度目かの呼びかけで鬼鮫が小さなうめき声と共に目を覚ました。
「おはよう、鬼鮫。さっそくだけど僕のことわかる?」
「・・・あ、あなた・・・何故ここに?」
「いろいろあってさ。それを今から説明したいんだけど、暴れないって約束してくれる?」
「・・・スイレン、あなたハルさんはどうしたんです?」
「だから今から言うって言ってるじゃん」
鬼鮫は意識がはっきりしてきたのか、スイレンの両脇にいるビーとナルトを見ると、状況を察したように「わかりました」と呟いた。
「ありがと。じゃあ、まず初めにさ、ハルのことなんだけど」
「・・・」
「・・・彼女は攫われたよ、あの面の男に」
「・・・どうして・・・ハルさんに手を出さないと、約束していたはず・・・じゃあ小南さんは・・・」
「確信はない。最期の前に、僕はハルを連れて逃げたから・・・でもたぶん、もう」
「・・・そう、ですか・・・」
しばらくの間、鬼鮫は言葉を失ったように何も話さなかった。
「おそらくあの男はハルを使って何かするつもりなんだ。・・・だから僕は、彼女を絶対に連れ戻したい」
「今こうしてお前と話をしているのは・・・お前がハルにとって大切な家族だからだ。この戦争で勝つということはハルを取り戻すことだと思っている。・・・でも、もうお前がハルのことをどうでもいいと思っていて、僕らを邪魔する気なら・・・今ここでお前を殺そう」
「でももし、ハルがお前を思う気持ちと同じものをお前が持っているなら・・・僕に協力しろ」
「もう・・・ハルに辛い思いをしてほしくないんだよ、僕は」
スイレンが目を伏せる。
そのとき、鬼鮫の中に何かが入ってきた。
どこかの森の中、大きな石がいくつか並べられている。
その前で静かに涙を流す少女がいた。
“ごめんなさい・・・”
「――今のは・・・?」
「僕の記憶。・・・ってあれ、お前たちまで見たのか」
「・・・あれってば、クロ、か?」
「そうだよ。鬼鮫、お前がさっきのを見てどう受け取ったかはわからない。・・・お前が決めろ」
この手はとうに血に染まっているし、自分は闇の人間だと自負していた。
でも、あの組織での暮らしが嫌になったことはない。
イタチとの約束もある。
鬼鮫の答えはもう、出ていた。