第40章 クロとハル
キミの、その空っぽで、乾いた心の奥を満たすものはなんだろう。
気休めでも、僕がそれになることはできないだろう。
僕では彼女の横に並ぶことはできない。
僕では彼女を満たせない。
僕では彼女の望むものにはなれない。
(わかってるよ)
彼女の幸せは、僕なしでも成り立つのだ。
(・・・それでも僕は、誰よりもキミに幸せになってほしいんだ)
十分すぎるほどつらい思いをした彼女のことを、いったい誰が責めることができるだろう。
スイレンは涙をぐいと拭うと、どこからか写真を取り出した。
「これは・・・?」
「ハルが僕に託したもの。これは宝物だって言ってた」
取り出されたのは、二枚の写真だった。
一枚はまだ木ノ葉にいた頃のハルの家族の写真だった。
ハルはイタチに抱き上げられていて、少し不愛想に映っている。
もう一枚は暁のメンバーといっしょに撮った写真だった。
みんなが笑顔で映っている。
「・・・暁のヤツらも、こんな風に笑ったりしてたんだな」
ポツリと呟いたナルトの言葉を否定する者は誰もいなかった。
ただ、それぞれが吐き出した息に重たいものが混じっているような気がした。
「コイツらがクロの大切な・・・アイツが、守りたかったもの・・・」
「なんというか・・・皮肉、だな」
その笑顔の下に、鉄壁の理性を持って感情をコントロールする彼女の真意を汲み取ることは難しい。
―――と、思っていた。
「なんか・・・やっとクロのこと、少しだけ理解できたような気がするってばよ。クロってば、本当は・・・ずっと、悲しかったんだな」
「ナルト・・・」
「クロもハルもサスケも、オレが連れ戻してみせる。スイレン、オレのことを信じてくれ。クロを殺す約束なんてオレが守らせねえ」
スイレンは黙ってナルトの言葉を聞いていたが、目を伏せたまま静かに呟いた。
「・・・僕は、彼女の望みを優先したい。そう思うけど、たぶん出来ないんだろうな、こればっかりは」
「じゃあ・・・」
「何もかもをお前みたいな青二才に任せるわけにもいかない。僕は彼女を取り戻すために動くし、彼女との約束もどうにかする。すべて終わったとき、ハルが笑えるように」