第40章 クロとハル
「そういうことだよな?・・・スイレン」
カカシが確かめるようにスイレンに問う。
スイレンは「・・・そうだね」と静かに言うと、顔を上げた。
「合ってるよ、カカシが言ったこと。ハルはイタチに連れ出されて、ずっとイタチたちと暮らしていたんだ」
「“たち”?」
「お前たちが殺した“暁”の人間といっしょに暮してたんだよ」
「暁・・・!? そんな危険なこと・・・」
「危険なんかじゃない、その逆だ。あそこの人間たちはハルにとってとても大切な存在で、家族だった。イタチだけじゃなくて、他のみんなから愛されてて・・・あの場所にいたハルは幸せそうだった」
スイレンから告げられる事実に、三人は驚きを隠せずにいた。
それにも構わず、スイレンは続けた。
「お前たちが最初に殺したのは・・・赤砂のサソリだったな。サソリが死んだとき、ハルは泣いたよ。・・・それから、お前たちが次々と殺していった。その度にハルは少しだけ泣いた」
「暁がお前たちの敵だってことも、暁が悪だってことも、ハルは全部わかってた。でも、大切に思っていたんだ」
「ハルは、“復讐したって意味がない”って言ってたよ。でも、お前たちへの憎しみはないわけじゃないと思う。・・・家族を二度も失ったハルの気持ちがわかる?大切な人が次々死んでいって、でもその悔しさをどこにもぶつけられないまま・・・」
「ハルの心がどんどん空っぽになっていくのを・・・僕は、ただ、見てることしかできなくて」
紡ぐ言葉が震える。
スイレンの両の目から、はらはらと涙がこぼれた。
初めてスイレンが流した涙は、頬を伝って下に落ちた。
「・・・ハルは、自分があの男に狙われていることを知ったとき、僕に約束させたんだ」
「“もし自分が木ノ葉やサスケに刃を向けるようなことがあったら、殺してほしい”って」
「ひどいよね、ハル・・・キミは本当に、ひどいよ」
「ぼくには、きみしかいないのに・・・」
言葉を吐き出したあと、スイレンの心にチクリとした痛みがあった。
(ああ、そうか)
(これが、悲しいってことなんだ)
こんなものをハルはずっと抱えていたんだ。
今になって、やっとわかった。
(こんな僕を見たら、きっとキミはひどい顔って言って、笑うのかな)