第40章 クロとハル
「クロは、“ハル”か?」
カカシの纏う空気に一瞬だけ緊張が走った。
その場にいる誰もがそれに気づいたが、カカシの表情を見ると何も言えなかった。
ただ、スイレンだけは変わらない表情でその口を動かした。
「・・・そうだよ」
スイレンが問いに答えた瞬間、カカシは何かを思い出すように目を閉じどこか悲痛な面持ちをした。
そこで当然の疑問がナルトとヤマトの中で生まれ、ナルトがポツリともらした。
「“ハル”って・・・誰なんだってばよ?」
「たしか、マダラがクロに言っていたような・・・あの男がクロに向けて言った言葉も、意味がわからないことだらけです。それと、その“ハル”に何か関係があるんですか?」
「そうだな・・・お前らにもちゃんと、説明しておく必要がある」
すべてを察したカカシがスイレンを見やるが、スイレンは目を伏せたまま何も言わなかった。
やがてカカシはスイレンから視線を外すと前を向き直り、口を開いた。
「クロがなぜ必要にサスケにかまっていたのか、そして三代目がクロをよく目にかけていた理由、そのすべてがわかった。出生、年齢、家族構成も、すべて」
「・・・そんな、いきなりどうして?」
「クロが、ハルだからだ。クロの本当の名前は・・・うちはハル。正真正銘、イタチとサスケの妹だ」
「―――は・・・?」
言葉を失うということは、まさにこうなのだろう。
ナルトの脳裏に、笑顔のクロの姿が鮮明に思い起こされた。
「・・・クロ、が・・・イタチと、サスケの・・・?」
「年齢は十四。あの事件のとき、イタチが殺したものだと思っていたが・・・おそらくイタチが連れだしたんだろう。三代目はクロがハルだということを承知の上で、木ノ葉に入れたんだろうな。せめてもの慈悲のつもりで、サスケの近くにいられるよう配慮したんじゃないだろうか」
いつかのクロの言葉を思い出す。
“両親はいないんだ。殺されたの、里にね”
“サスケは私にとって、一番大切な人なの”
“私、ナルトくんに嘘ばっかついてるよ"
友達になろうと言ってくれて、うれしかった。
いつも余裕があって、頭がよくて、強いクロが、カッコよかった。
笑うクロが、大好きだった。
記憶の中の彼女はいつでも笑っているけど、その笑顔の下にすべてを隠していたのなら、あの笑顔は嘘だったのだろうか。