第39章 あなたのこと
なんだ、これは。 どうなっている?
浅い呼吸を繰り返し、思わず後ずさりすると、背中に何か当たった。
「どうした、ハル。・・・何か怖い夢でも見たのか?」
「・・・!」
ひゅっ、と息を呑んだ。
(・・・これは、夢だ)
「イタチ、兄さ・・・」
「お前も飛段といっしょにつまみ食いしたのか?・・・フッ、いたずらも程々にな」
兄がポンと私の頭に手を置き、ソファに腰を下ろす。
私は目を見開いたまま動く彼らを視界に映し、その場に立ちすくんだ。
「ッ・・・」
みんなの死に際がはっきりと思い出される。
(見たく、な・・・)
―――そう、思っていたら。
まばたきの間に、また白い世界にいた。
先ほどの喧騒をどこかへ落としてしまったように、誰の息吹きも感じられない。
ふいに視線を下へ落とした瞬間、私は息を呑んだ。
「・・・!?」
白い世界の中、一人立ちすくむ私の足元には、いくつもの肢体が転がっていた。
「あ・・・」
震える声がこぼれ落ちる。
倒れていたのは、私が大切だった人たち。
父、母、兄、そして暁のみんな。
それぞれが私が見届けた最期のように死んでいた。
「ハル」
「! スイ、レン・・・」
「ねえ、キミが悪いんだよ?ずっと何もしないから。だからみんな死んじゃったんだ」
「・・・」
「キミは大切な人の命より、世界の平和を選んだ。うんうん、仕方ないよね。だってキミが大好きな暁の人間はみんな追い忍で、犯罪者で、罪のない人たちをどんどん殺していっちゃうもんね」
「・・・」
「キミは見殺しにしたんだ。家族も、みんなも、そして自分自身も」
これは夢で、目の前にいるのはスイレンじゃない。
わかっている。
でも、思うように口が動かなかった。
「辛いよね?なら、創ればいいんだよ」
「は・・・?」
「キミだけの世界を見せてよ。フフ、にせものだっていいじゃん?」
「お前はスイレンじゃないでしょ。にせものなんていらない、私は―――」
「ハル。足元、見なきゃ」
ゆっくりとした動作で、スイレンの形をした誰かが私の足元を指さす。
その直後、地面が液状に変化し、黒い何かが私の足を掴んだ。