第39章 あなたのこと
黒い何かはまるで沼のように、私を含め倒れているみんなごと引きずり込むつもりのようだった。
どうすればいいのかわからなくて偽スイレンを睨んだが、ソイツはニコニコと笑っているだけで沈んではいないようだった。
「お前、何を・・・」
「じゃあね、ハル」
「は・・・!?」
ソイツは、私が首もとまで沈んだときに笑いながら言った。
「おやすみ。いい夢を」
それが最後、私は黒に呑み込まれてしまった。
(クソッ・・・)
白い世界が遠ざかっていく。
沈んでみればまるで海のようで、あたりは薄暗く透明だった。
ただ、何かに引っ張られるように下へ下へと沈んでいっていた。
重たい水は私の体を掴んで離さない。
意識が水に溶けていくのを感じながら、私は無意識に手をのばした。
(・・・私はまだ、やらなきゃいけないことがあるのに・・・)
不思議と苦しいとかはなくて―――けれども次の瞬間、溶けていくような感覚につつまれ、私はあたたかいような夢に落ちていった。
『あなたのこと』
“忘れたくない”