第38章 わたしは
後ろは壁、逃げ場は無かった。
しかし彼女は、目を見開き固まっている私を見ると表情を変えずに「ハズレか」と言うとどこかへ行ってしまった。
「・・・ッ・・・」
私の大切な人が、私の大切な場所を壊している。
そのことがどうにも絶望を抱かせていて、アザが痛んだ気がした。
(行かなきゃ・・・こんなところにいる場合じゃ・・・)
深呼吸をし、立ち上がると私はまた走り出した。
途中、逃げ遅れた人を救助しながら、スイレンとも合流し、私が彼らのいる塔の近くにたどり着いたのは少し時間が経ってからだった。
「いた・・・ペインさん・・・」
『・・・どうするの?』
「わかんない・・・」
「でも―――」と続けようとしていると、再び強い揺れが私たちを襲った。
「!?・・・まさか」
バッと上空を見上げると、そこには宙に浮き、手を掲げている彼の姿があった。
そして、次の瞬間。
木ノ葉の里は、瓦礫の山と化していた。
「・・・」
見渡す限り、何もなかった。
兄の守った里が壊れている。
しばらく放心状態で、スイレンの呼びかけにも応えることができずにいた。
―――どうしよう。 どうしよう。
(どうしたらいいの・・・)
「・・・止めなきゃ。ペインさんを・・・」
今はただそんな考えしか頭に浮かばなくて、走り出した。
動揺していたのだと冷静になったのはペインと対峙するナルトの姿を目にしたからだった。
「あ・・・」
しばらく見ないうちに強くなったナルトは、一人、また一人とペイン六道を倒していく。
その光景を見ていると、隣から私の名を呼ぶ声がした。
「・・・クロちゃん?」
「ヒナタちゃん・・・無事で良かった。どこか怪我は?」
「ううん・・・」
ヒナタは胸のあたりでギュッと拳を握りしめ、ナルトを見ていた。
その目には悔しさと心配が浮かんでいた。
(・・・そういえばこの子、あの二人の戦いに突っ込むんだったっけ。強いよな・・・やっぱり、止めた方がいいよね。そうしたらナルトが九尾化せずに済むけど、ペインに連れて行かれて殺されてしまう・・・どうすればいいんだ?)