第37章 サスケとハル
終始無言のまま、サスケはベッドの傍まで歩いた。
白い獣はサスケをチラリと見て、ベッドから降り、その場に座った。
そうしている間にも、サスケは少女の顔を覗きこんで、確信した。
「・・・ハル」
間違いない。 妹だ。
記憶の中の妹の面影を残したまま、大きく成長していた。
そこで幼き頃の記憶がよみがえる。
(そういえばハルは一回寝ると、なかなか起きなかった)
何度も妹を起こしに行った。
なかなか起きなくて、でも頭を撫でて名前を呼んでやれば、うっすらと目を開けた。
そうやってサスケとイタチは寝起きの悪い妹を起こしていた。
(まさか、またこんな日がくるとは・・・)
ゆっくりと、彼女の髪に触れる。
「・・・ハル」
あの頃と同じように。
「ハル、起きろ」
二、三度続けてその行為を繰り返すと、彼女が小さく身動ぎをし、小さく声をだした。
「ん・・・イタチ兄さ・・・」
訂正はせず、彼女が起きるのを待つ。
「ん・・・?」
ついに、薄く開いた彼女の黒い瞳がサスケを捉えた。
心臓が早鐘を打つのを感じながらも、サスケは黙っていた。
ボーッとしていた彼女だったが、数秒後、やっと意識がはっきりしたのか目を見開いていた。
「―――えっ?」
完全に目を覚ましたらしい彼女は、飛び起きると激しく動揺しながら背を壁につけた。
「ん・・・んん?えっ・・・ど、どういうこ、と・・・」
そして、八年ぶりに彼女の声を聞いた。
「サスケ、兄さん・・・」
「・・・久しぶり、ハル」
無意識に優しい声と口調になる。
「オレのこと、わかるのか」
「・・・う、ん」
「・・・そうか」
フッとサスケが笑みを浮かべると、ハルがベッドに腰掛けるよう促した。
ようやくハルも落ち着いたのか、改めてサスケに向き直った。
「サスケ兄さん、また会えて嬉しいな」
「・・・オレもだ」
「背、伸びたね」
「ああ」
「・・・ごめんなさい」
「?」
「・・・一人にして、ごめんなさい」
そう言うと、ハルは膝の上の手をギュッと握りしめた。
ハルの表情に影が落ちる。
何が言いたいか瞬時に理解したサスケは、何も言わずにハルの頭を撫でた。