第37章 サスケとハル
「・・・ここです。土足じゃないので、ちゃんと靴脱いでくださいね」
連れてこられたのは、遠く離れた場所だった。
全然「少し」じゃない、とサスケは心のなかで毒づいたが、声には出さず素直に従った。
余計なことを考えているのは、緊張しているからなのか。
「何年ぶりですか?・・・再会するのは」
「・・・八年だ」
「そうですか」
居間のような場所に通され、鬼鮫がハルを呼ぶ。
「ハルさん?帰りましたよ」
だが、返事はない。
居間にはいないことを確認した鬼鮫は、向こうの扉の方へ向かった。
「おかしいですねえ・・・ちょっと待っていてもらえますか?ああ、適当にかけていてください」
そう言って奥へ消えた彼に取り残され、居間にはサスケ一人となった。
言われた通りにソファに腰を下ろすと、部屋のなかを見渡した。
(まさかこんなところに暁の奴等が住んでいたとは・・・)
しばらくすると、鬼鮫が一人で戻ってきた。
「サスケ君、こちらへ。来てください」
サスケが眉を寄せ立ち上がると、鬼鮫はまた奥の方へ行ってしまう。
少し遅れて鬼鮫のあとに続くと、彼は一つの扉の横に立っていた。
「・・・おい、」
「覚悟ができたなら、入ってもらって構いませんよ」
そう言うと鬼鮫は来た道を戻っていった。
またしても残されたサスケはしばらく呆然とし、それから扉へ向き直った。
(ここに、ハルがいるということなのか・・・?)
ドアノブにゆっくりと手を掛ける。
けれども、手はドアノブに乗っけたままで、下に引くことができたのはしばらくあとだった。
一つ深呼吸をし、サスケはドアノブを引く。
ガチャリと音をたて扉が開くと―――待っていたのは静寂だった。
(・・・誰もいない?)
そう思ったのは一瞬で―――サスケは、すぐに見つけてしまった。
「・・・!」
ベッドに横たわる少女。
(・・・ハル、なのか)
目が離せないまま部屋の中へ足を踏み入れると、近くにいた白い獣が牙を向いた。
どことなく既視感を覚えていると、ソレはすぐに威嚇をやめ、なぜか焦ったようにベッドの上に飛び乗った。
ペシペシと前足で少女の顔を小さく叩いているが、まったく起きる気配はなかった。