第36章 兄が望んだもの
マダラの言葉の直後、強い力で引き込まれた。
気づけばまた時空間内にいて、少しすると例の感覚とともに見慣れた場所に帰ってきていた。
(帰ってきた・・・?)
思わず呆然としていると、頭上からオビトの声が聞こえた。
「計画を知った以上、お前には暁に入ってもらう。もちらん、拒否権はないものと思え。ま、お前が逃げたところでサスケが死ぬだけだ」
「・・・!」
「いつまでも別人を名乗ってサスケを騙していたところで、何も変わりはしない」
「・・・気づいて、いたんですか」
「オレをあまり甘く見ないことだ。オレはお前の兄やここのメンバーとは違う。お前を甘やかしたりはしない」
すると木遁の拘束がとけ、違和感を覚えた左手を見る。
特に何ら変わりなかったが、手の甲に小さな濃い紫色のアザのようなものができていた。
「それは、少しずつお前の身体を侵食していく。お前の身体を覆い尽くしたとき、お前はお前ではなくなる」
「私が・・・私じゃなくなる・・・?」
「・・・また来る。その時にまた伝えよう」
そう言い残し、オビトは消えた。
現実味が湧かず、緊張が解けたのかペタリとその場に座りこんだ。
そこで、ハッとする。
「・・・スイレン?」
スイレンの姿がない。
「スイレン、どこ・・・」
(まさか、私がオビトの時空間内にいる時に、あの人に何かされたんじゃ・・・)
「ッ・・・スイレン!スイレン、スイレン!」
立ち上がり、アジト中を慌ただしく探し回るが、スイレンの姿はどこにもなかった。
「嘘でしょ、スイレン・・・」
嫌な考えしか頭に浮かばず、ぐるぐると悪循環のように頭が段々と真っ白になって、何も考えられなくなっていく。
誰もいないこの場所で、自分の心臓だけが音を立てている。
(何よ、これ・・・!)
靴も履かずに、勢いよく外へ出る。
キョロキョロと辺りを見渡し―――すると、大声で私を呼ぶ声がした。
『ハル!!』
それは、紛れもないスイレンの声だった。
ふと、声がした頭上を見上げると、人型のスイレンが私の前に降りてきた。
『無事だった!?アイツに何され―――』
「スイレン・・・!!」
『!』
思わず、ギュッと抱き締めた。
『は、ハル?どうし・・・』
「・・・かった・・・良かった・・・!」