第36章 兄が望んだもの
「フン・・・お前、まだこの世に光を見出だしているのか。話では、お前はすでにたくさんのものを失っていると聞いたのだが」
「コイツにはまだ兄が一人と・・・それと、木ノ葉の里か。その二つが存在する限り、コイツが変わることはないだろう」
オビトはそう言うと、後ろの岩壁へ背を預けた。
そしてふいに、
「・・・サスケを殺すか・・・」
と呟いた。
オビトがその言葉を口にした直後、彼の左腕を黒い炎が包んだ。
「!? くっ・・・!」
彼は呻き声のようなものをあげると、後ろの岩壁のなかへ消えていった。
「ほう・・・“天照”か」
(・・・!)
ハア、ハアと荒い呼吸を繰り返しているのは、紛れもない私だった。
左目が激しく痛み、血が涙のように頬を伝っている。
(私、万華鏡車輪眼・・・)
万華鏡車輪眼を開眼しうる者の条件は、“最も親しい者の死を体験すること”だ。
「引キ金ハ、イタチノ死カ」
黒ゼツの声がしたあと、再びオビトが姿を現した。
「油断したね、オビト。しかし、天照をこんな至近距離で見れるなんてラッキーだ」
白ゼツがオビトに向けて話し掛ける。
オビトは「そうだな」と短く答えると、再び背を岩壁へ預けていた。
「お前、なかなかいい眼を持っているな。・・・クク、気に入った。気に入ったぞ、小娘」
「・・・」
「やはりオレと手を組め。お前はこの世で死ぬには惜しい」
「・・・!」
「失ったものを取り戻したいのならば、“月の眼計画”に協力しろ。それが成功すれば、お前は望む世界へいくことができる。・・・今は迷っているようだが、お前は必ずオレの元へ来るだろう。おい、オビト」
「・・・ああ」
何をするつもりなのか、マダラはオビトに目配せをすると、オビトは印を結び始めた。
(なに・・・?)
すると、若干の違和感を左手に覚えた。
と、次の瞬間、左手に火傷を負ったときのような痛みを感じた。
「!?」
思わず顔を歪める。
無意識に身をよじるが、そんなものに意味はなかった。
「オビト、もういいぞ。用は済んだ」
おもむろにマダラがそう言うと、オビトが私がいる方へと近づいてきた。
「・・・いずれ、お前はオレのものとなる。その目が堕ちるときが楽しみだ・・・」