第36章 兄が望んだもの
『ハル・・・?』
明らかに困惑したスイレンの声が聞こえて、私は「ごめん」と短く言うとスイレンから離れた。
「・・・あの人に、何もされてない?」
『うん。キミが連れて行かれたあと、キミのチャクラを探し回っていたんだよ。そしたら急にここからチャクラを感じたから、慌てて戻ってきたんだ』
「・・・そう」
『キミこそ大丈夫?』
「何が?」
『手、震えてる』
スイレンの手がそっと私の手を包む。
いつの間にか小刻みに震えていた手は、情けないことに未だそのままだった。
(ハル、自分が写輪眼出してることに気づいてないのかな。・・・でも、なんかちょっと嬉しい。こんなこと考える僕はおかしいかもしれないけど、キミに必死に探してもらえる存在になれたことが嬉しい。・・・でもまあ、今のハルの心情を考えれば、そうなるのかな)
「・・・スイレン、何笑ってんの」
『ううん、何でもない。あのさ、ハル。僕はキミを一人になんてしないよ。約束する。だから、安心して』
「そんな約束、したって意味ない」
『あるよ』
「私がスイレンを置いていったらどうするの」
『それなら僕はキミに追いつこうとする。それで、追いついて、いっしょにいく』
「・・・アンタ、本気?」
にっこり笑って頷いたスイレンは、私の手をゆっくりと離した。
“置いていく”ということがどういうことなのか、言わなくてもわかっている。
この世界は辛い。
でも、愛おしい。
「・・・怖い・・・」
イタチが望んだのは、サスケの幸せ。
それならそれを守るしかないけれど、でも、どうしたらいいんだろう。
(・・・どうしたらいいの)
“失ったものを取り戻したいのなら”
その言葉に、心のどこかが微かに揺らいでしまっていた。
そのことに気づいてしまった。
―――またみんなに会える。
私が、助けなかったみんなに。
(違う)
「ねえ、スイレン。私と約束してくれる?」
『ん?』
「もし、私が・・・木ノ葉と、サスケ兄さんに刃を向けたら、私のこと、殺してほしいの。・・・お願いね、スイレン。頼めるのは、アンタだけなの」
スイレンは、目を見開いてしばらく何も言わなかった。
今度は私が小さく笑って、
「ごめんね」
と呟いた。
『兄が望んだもの』
“私ができること”