第36章 兄が望んだもの
一度深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
すると、私のすぐ横で声が聞こえた。
「あれ、イタチの妹じゃん。オビト、結局連れてきたの?」
(・・・!)
「オイ、ウルサイゾ。オマエ、ソノ名前ヲ迂闊ニ出スナト言ワレテイタダロウ」
「ええっ?あ、そうだったね、ごめんごめん」
反射的に体を仰け反る。
表情には出ていないと思うが、かなり驚いた。
(白ゼツと黒ゼツ・・・!)
私が背を預けていたのは岩壁で、彼らはそこから出てきていた。
(何よ、ここ・・・しかも今“オビト”って言った。私に隠す気ないの?ていうか、何が目的で私をここへ連れてきたの・・・)
ぐるぐると考えていると、一際存在感のある声が聞こえた。
「そこまでにしろ」
(――――え?)
それは、聞くことはずのない声だった。
視線が自然とそちらへ向く。
目を見開く私をよそに、彼はゼツたちに言った。
「オレが連れてこいと言ったのは、その娘だけだ。お前たちまでついてくる必要はない」
「でも気になるよね、あのイタチの妹だよ」
「確カニ、気持チハ分カランデモナイ」
目の前にいたのは―――あのうちはマダラだった。
(な・・・なんで)
髪は白く染まり、見る限りは年寄りにしか見えないが、その姿は間違いなく、うちはマダラだった。
それに気がついた瞬間、一気に緊張感が高まる。
動悸が激しくなるのを感じ、必死に平常心を保つように心掛けた。
「さて、小娘。オレの名はうちはマダラだ。うちはの血を継ぐ者ならば、オレの名は聞いたことくらいあるだろうが・・・お前、名は何という」
「・・・ハル。うちはハル、です」
「ハル、か。聞けばお前、なかなか興味深い行動をしているらしいな。仲間の死に際に立ち会っているとか・・・まるで、未来でも見えるようだな」
「・・・!」
「まあいい。お前をここに連れてきたのは、計画に協力してもらうためだ」
「・・・お断りします」
「・・・ほう。まだ“何の”とは言ってないが?」
「それでもです」
マダラから目を離さずに、おそるおそる口を動かした。
声は震えていないだろうか。
胸の内が見透かされていそうで怖い。
「・・・オビト、お前の言う通りだったな。オレの誘いを断るとは・・・まるでなつかない猫のようだ」