第36章 兄が望んだもの
兄がいなくなって数日、アジトには私しかいなくなっていた。
木ノ葉へは足が遠くなり、最近は行っていない。
誰もいなくなったこの場所で、私はいつも鬼鮫が帰ってくるのを待つ日々が続いていた。
彼は唯一、ここへ帰ってくる人。
小南は気を利かしてくれているのか、たまに私に会いに来てくれる。
今日も一人で本を読んでいると、足音が聞こえた。
ページをめくる手を止め、顔を上げたのは、スイレンが警戒体制に入ったからだった。
「スイレン・・・?どうし―――」
振り返った瞬間、
『ハル!!』
ガッと腕を掴まれ、私は声をあげる間もなく、強い力で引きずり込まれた。
スイレンの私の名前を呼ぶ声が聞こえて―――状況が理解できたのは、その数秒後だった。
「・・・何、ここ」
気がつけば知らない場所にいた。
私の腕を掴んだのは、あの面の男だった。
(まだ“トビ”と呼んだ方かいいのか・・・)
ということは、ここはあの男の時空間の中か。
やっと状況が把握できたのはいいものの、出ることができない。
どうすることもできず、そのままじっとしていると、再び引きずり込まれるような感覚があると同時に、気が付くと、私は薄暗い場所にいた。
「っ何なんだよ、一体・・・」
思わず舌打ちをしてしまう。
だって、こんなの無茶苦茶だ。
少しして暗さに目が慣れると、目の前に彼の姿を見つけた。
「・・・何の、真似ですか」
「フッ・・・そう警戒するな」
彼は、以前とは雰囲気も口調も違う、まったくの別人となっていた。
思わず眉をしかめていると、彼が私に向けて手を伸ばし―――すると、私の上半身に何かが巻き付いた。
その拍子に重心が傾き、後ろへ尻餅をつく。
(木?・・・木遁か。身動きとれなくなったな・・・)
「暴れられては困るからな」
一旦感情を削ぎ落とし、私は無表情で彼を見つめた。
「イタチに何か言われたか?・・・アイツのことだから、お前にも何か仕込んでいそうだな。まったく、最後まで用心深い男だ」
(“お前にも”・・・イタチがサスケに仕込んだ天照をくらったのか)
私に仕込んだのかは不明だが、天照を警戒してか、彼は面をとることをしなかった。