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うちはに転生しました。

第36章 兄が望んだもの





目が覚めると、すでに夜は明けていた。


(寝てたのか・・・)


身体を起こすと、布団がきちんと掛かっていた。


「・・・?」


視線を横にずらすと、スイレンの姿があった。

スイレンは起きていて、私と目が合うと気遣うような声の調子で『大丈夫?』と私に聞いた。


「・・・うん。おはよう、スイレン。アンタが布団掛けてくれたの?」

『ううん、僕じゃなくてあの鬼鮫って人だよ。キミが寝たあともう一回ここに来たんだよ』

「そう・・・あ、私、昨日風呂入ってない・・・」


着替えを持ち風呂場に向かうと、その途中で鬼鮫と会った。

彼は少し驚いたような表情をすると、「今日は早いんですね」と言った。

私はぎこちなく頷き、風呂に入ってくることを伝えると、彼はただ「そうですか」と言った。


風呂から出ると、スイレンに髪を乾かしてもらった。

これはスイレンの申し出で、少し戸惑ったけど、結局それに甘えることにした。

「ありがとう」とスイレンの頭を撫で、居間へと向かう。

すると、鬼鮫がそこにいた。


「ハルさん、食欲はありますか?」

「あ・・・あります・・・」

「では食べてください。昨晩から何も口にしていないのでは?」


鬼鮫がわざわざ私の為に朝食を作ってくれたことは、一目瞭然だった。

その証拠に彼の分の朝食はテーブル上にはない。

鬼鮫を見ると、彼はいつものようにお茶を飲んでいた。

席に着き、ご飯を口にした瞬間、ぎゅうと胸が締め付けられるような感覚を覚えた。

それから私の目から涙が一筋流れるまで、そう時間は掛からなかったと思う。

鬼鮫は何も言わなくて―――それが余計に辛かった。


「あ・・・すみません・・・」

「いえ。私は別に何もしていませんよ」

「・・・今日、任務は?」

「ありませんよ」

「・・・あの」

「?」

「・・・ありがとうございます・・・」

「はい」


それから彼は再びお茶を飲み始めた。

二人だけとなった今、私の目の前は真っ暗だった。

前は、決して明るくはなくとも兄が手を引いてくれたから、少し先までは見えていたというのに。


(・・・もう見えない)


何の明かりもなしに歩くのは怖い。

進めないことは悪いことなのだろうか。
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