第36章 兄が望んだもの
―――戦いは、あっという間に終わった。
長いようにも、短いようにも感じられたその時間は、まるで何かの夢を見ているようにも錯覚させるものだった。
うちはのアジトがガラガラと壊れる音は、私の世界の一部が崩れる音だった。
イタチとサスケが地面に倒れたところで、私は兄たちの元へ移動した。
ボロボロの二人に近づき、サスケの横にしゃがむ。
頬に手をのばすと、あたたかかった。
「・・・生きてる・・・」
それにホッとし、次に先程別れを告げた兄の方へ手を伸ばす。
薄く開かれた目には、すでに光はなかった。
何も映さないの目を、閉じさせた。
触れる頬に温度はない。
ああ、死んでるんだ、と嫌でも理解できて、ギュッと目を閉じ冷たい彼の手を握った。
「・・・お疲れ、さま」
掠れた声で呟くと、彼の手を地面にゆっくりと置いた。
おそらくこの後オビトが二人を回収しに来るはず。
ふと考え顔を上げると、遠くにいたゼツと目が合った。
特に興味もなかったのでイタチの額当てを探し出したあと、横たわる二人を目に焼き付け、その場をあとにした。
「―――・・・ハルさん、いますか?」
「はい」
扉を控えめにノックしたのは、鬼鮫だった。
ガチャリと扉が開き、彼が顔を覗かせた。
「・・・おかえりなさい、鬼鮫さん」
「はい。・・・ハルさん、あなたに言わなければならないことがあります」
「・・・」
「・・・イタチさんが、亡くなりました」
鬼鮫の言葉に私は俯き、震える声でそうですかと答えた。
一応気遣っているのか、彼の声はひどく遠慮しているように聞こえた。
「私は部屋に戻ります。何かあれば、いつでも呼んでください」
「・・・はい」
鬼鮫が出て行ったあとも私はしばらく動けずにいた。
ややあって顔を上げると、心配そうなスイレンと目が合った。
ベッドに横たわり目を閉じると、脳裏には出掛ける時に交わした言葉がよみがえっていた。
“今日は遅くなるから、先に寝ていろ”
微笑んだ兄はもう帰ってこない。
部屋やベッドが広く感じて、一人世界に取り残された気分になる。
今はこれ以上何も考えたくなくて、現実から目を背けるように目を閉じた。