第36章 兄が望んだもの
二人の姿がなくなると、ペタリ、とその場に座り込んだ。
「・・・“いってらっしゃい”・・・」
うわごとのようにもう一度その言葉を繰り返すと、両手で顔を覆った。
「・・・ダメよ、泣かないって・・・決め・・・たのに・・・」
―――愛してる。
この言葉だけでも伝えられてよかった。
「・・・うっ・・・ううっ・・・・・・」
ボロボロと大粒の雫が地面に落ちる。
辛いのは私じゃない、イタチだ。
だから、泣くのは私じゃないってわかってる。
服の袖で目をこすってみても、涙は滲んだ。
「・・・私・・・イタチ兄さんに変に思われてなかったかなあ・・・」
『・・・大丈夫。キミはちゃんと、いつも通りに振る舞えていたよ』
「そっかあ・・・うん、ならいいの・・・」
それからしばらく、私は顔を上げることができなかった。
―――一時間後。
「出掛けるわよ、スイレン」
『えっ?・・・どこに?』
「うちはのアジトよ。・・・そこで兄さんたちが、闘うはず」
『わかった。でも・・・キミ、大丈夫なの?』
「大丈夫。それに、最期を見届けるって決めたから」
『キミがいいなら、僕もそれでいいよ』
鬼鮫との約束はもとより守るつもりはなかった。
出掛ける前に顔を洗い、深呼吸をすると、目的地へと向かった。
到着してみたが、特にまわりに戦いの痕跡は残っていなかった。
「・・・まだ、始まっていないのかな・・・それとも、まだ中で・・・?」
『後者だよ、ハル。中にチャクラを感じる。二つともキミのお兄さんのものだ』
「・・・そっか」
すると、直後―――ドドォン!という物凄い爆音が聞こえ、地面が揺れた。
「!?」
『ハル、見て・・・!』
「あ・・・あれは・・・」
サスケだ。
兄の姿を認めて、思わず息を呑む。
最期の時間が迫ってきているのを感じ、私はその光景から目を逸らさないでいようと決意した。