第36章 兄が望んだもの
「―――おかえりなさい、イタチ兄さん、鬼鮫さん」
「ただいま」
「ただいま帰りました」
夕方、少し疲れたような表情をして帰ってきたイタチは私の頭を撫でると「風呂に入ってくる」と言い残し洗面所へ消えた。
その場には鬼鮫と私が残され、とりあえずソファに座ることにした。
「・・・ハルさん、明日は何か予定はありますか?」
「え?・・・いや、特には・・・」
「では、明日はここにいてください」
「何かあるんですか?」
「・・・いえ、最近山賊がよく出ると聞きますから。外出は控えた方がいいかと」
「・・・わかりました。じゃあ、ここにいますね」
何かある。
そう感じてしまったのは、本当はよくなかったのかもしれない。
そう思ったのは、私がお風呂から上がったときに聞こえた会話のせいだ。
「・・・イタチさん、いよいよ明日ですね」
「・・・ああ」
「いいんですか、ハルさんに何も言わなくて」
「ハルは何も知らない・・・オレの身体ももう限界だ。これ以上は薬を使っても無理だろう・・・明日、サスケ以外の人間を通すな。いいな?」
「ハア・・・わかりましたよ。あなたの命令なら仕方ありませんね。ですが、ハルさんはどうするんです?サスケ君は大丈夫としても、あまりに酷じゃありませんか」
「・・・そうだな。オレは兄失格だ」
いっしょに風呂に入っていたスイレンが驚いたように顔を上げ、私を見る。
私は目を伏せながらその会話を聞き、少しの間、うずくまった。
(“兄失格”?・・・そんなわけない)
「鬼鮫、ハルを頼んでもいいか」
「・・・私は子どもの扱いが苦手なんですがね・・・それでもいいと言うなら」
「ああ。それでいい」
二人の静かに笑う気配がして、顔を上げる。
(・・・聞くべきじゃ、なかったかもしれない)
それから何事もなかったように立ち上がり、彼らの元へ向かった。