第35章 誘い
アジトへ戻り、息をつく。
居間に顔を出してみたけど誰の姿もなかったので引き返そうとすると、後ろから声を掛けられた。
「戻っていたのか」
「・・・あ、ペインさん。今さっきですけど・・・はい。ペインさんはこれからどこか行かれるんですか?」
「ああ」
「・・・お気をつけて、行ってきてください」
口からポロリと出た言葉は明らかに、いなくなったメンバーのことを想って出たもののように思えて、慌てて弁解するように次の言葉を探した。
「いや、小南ちゃんが、ペインさんはとても強いと言っていたので、心配することは何もないですよね・・・!すみません、変なこと言って・・・」
アタフタする私をよそに、ペインはくるりと私の方へ体を向け、私にこう問うた。
「お前は、いなくなった者たちをどう思う?」
「・・・それは、みんなのことですか?」
「ああ」
「・・・どうって・・・辛いし、苦しいです。この先、みんなが死んでいくのかと思うと、とても怖い。でも、それは・・・どうしようもないこと、なのかもしれません」
私は無意識のうちに暗い表情をしていたようで、落ちる沈黙にハッと顔を上げた。
私を見る輪廻眼が少しだけ怖く感じたころ、彼は「ついてこい」とただ一言言い放った。
「・・・え?」
聞き返すが彼はすでに歩き出しており、スイレンとともに慌ててついて行った。
「―――ここだ」
しばらく移動し続けたころ、ふいに彼がそう言った。
スイレンの背から降り、彼の後に続く。
紙で作られた木の中に入ると、ガランとした場所が私を待ち構えていた。
薄暗さのせいか少し寒気がして、思わず身震いをする。
顔を上げると、そこには痩せ細った赤髪の男の姿があった。
その横には見慣れた彼女の姿もあった。
「・・・来たか」
(この人が、“長門”)
「は・・・じめまして。私、うちはハルです」
そう言って恐る恐る歩みを進める。
横のスイレンはいつも通りで、きっとこの子の心臓には毛が生えているに違いない。
私と彼の距離は約十メートルくらいで、そこで初めて彼と目を合わせた。
「オレの名は長門。イタチの妹か・・・こうして実際に見ると、何も知らないただの子どもだな」