第34章 恩返し
―――飛段がシカマルに誘導され、向こうに行ってしまった。
姿が見えなくなった瞬間、キリキリと胸が張り裂けそうだった。
彼の額当てを握りしめ、揺れる視界を手の甲で拭った。
(・・・もう、帰ってこない)
分身を出し、飛段が姿を消した方へ向かわせた。
深呼吸を一つしたあと、角都の姿を確認する。
激しい戦いには違いないけれど、それでも角都の強さは目に見えていた。
けれども、ナルトが増援として来たことで状況は変わった。
新術“風遁・螺旋手裏剣”の威力は凄まじいものだった。
結局、戦いの行方は―――暁二人の敗北に終わった。
飛段の最期はすでに分身が見届けた。
そして角都は、今、カカシにとどめを刺されそうになっていた。
(・・・ダメだ、ってわかってる―――けど)
私は駆け出した。 必死に、無我夢中で。
(角都さんだってもう持たない、それなら最期のほんの少しだけでも)
そして、カカシと角都の間に割って入り、カカシの攻撃を阻止した。
「っまだ・・・待って」
私の小さな声にカカシは目を見開き、その瞬間、私の分身が姿を現した。
そして角都との距離を広げる為、カカシに攻撃を仕掛け始めた。
すでに、これまでの戦いでチャクラを消費していたカカシは狙い通り少しずつ後退していた。
本体の私はしゃがみこむと、落ちていた角都の額宛てを拾った。
「・・・ごめんなさい、角都さん」
「・・・ハ、ル・・・」
「コレ、くださいね。勝手にさわって、ごめんなさい」
「お前、まさか・・・」
虚ろな彼の目は、私を映してくれているのだろうか。
「わかっていたのか・・・?」
角都がその言葉を口にしたとき、彼の頬に冷たい雫が一粒だけ落ちた。
彼に届いているかはわからない。
ただ、私は二つの額当てを握りしめて、震える声を絞り出した。
「・・・はい」
返事はない。
その瞬間にこの場の終着を察して、まぶたを閉じた。
分身を消し、もう一度角都の姿を目に焼き付けると、その場を去った。