第34章 恩返し
「あ、あの」
「なんだ?」
「・・・か、帰って・・・来ますよね・・・?」
震える声で紡いだ言葉は、自分が思っていたよりも弱々しいものだった。
(ああ、ダメだ・・・わかってるのに、これは守れない約束なんだって)
(守れなくするのは、この私も同然なのに)
握りしめた手が冷たい。
飛段の目に映る自分が、ひどく愚かに見えた。
「決まってんだろ。これが終わったら帰るって」
「あ・・・そ、うですよね。ごめんなさい、あの、あと一つだけ・・・!」
「なんだ?」
「・・・ひ・・・額当て・・・」
「?」
「額当て・・・貸して、くれませんか」
飛段が不思議そうに首をかしげる。
彼の視線から逃れるように目を逸らすと、飛段は「いいぜ」と言って、私の前に自らの額当てを突き出した。
冷えた手でそれを受け取ると、飛段は「そろそろ角都に怒られちまう」と言い、元いた場所へ戻っていく。
「っ・・・」
―――待って。
言いそうになった言葉を必死で飲み込んだ。
鼻がツンとしたけど、下は向きたくなかった。
その頃、飛段が戻ってくる気配を感じた角都は、シカマルの言葉に眉を寄せていた。
「シカマル、それ本当?」
「ああ・・・あの黒いヤツ、アスマを攫ったヤツと背格好がほぼ同じだ」
「ほぼ・・・?」
「アスマを攫ったのは二人組だ。背の高い方がいねえ・・・今日はたまたま一人なのか・・・?」
(二人組・・・?あの賞金首を攫った、だと?まさか・・・)
「角都、悪ィな・・・ハルのヤツ、なんか泣きそうな顔してたぜ。イタチと喧嘩したんじゃねーかな」
「は?・・・お前、額当てはどうした」
「アイツが貸してくれっつーから、あげてきた。ま、どーせ帰ってから返してもらうし、いいだろ」
「・・・さっさと済ませて帰るぞ。アイツには聞きたいことができた」
「そーだな。オレも早く帰りてーし」
二人が戦闘モードに入ると、木ノ葉の忍たちも同じように構えた。
二人は、この戦いが終わればいつも通り帰るものだと思っていた。
そんな未来はないはないことを、一人だけが知っている。
角都は最期に薄らいでいく意識の中で、ハルを捉えながら、人知れずある考えにたどり着いていた。
(・・・その表情・・・お前・・・)
「わかって、いたのか・・・?」